オーダースーツ 銀座英國屋コラムイタリア製オーダースーツ生地特集|ルネサンスの息吹を現代に伝える洗練と洒脱の結晶
イタリア製オーダースーツ生地特集|ルネサンスの息吹を現代に伝える洗練と洒脱の結晶
英国のビスポークをお手本に、独自の技術も融合させて生まれたサルトリア文化。サヴィル・ロウのテーラーとはまたひと味違う、ナポリやミラノのサルト(仕立て職人)が生み出すクラシコイタリアで用いられるのは、洗練されたイタリア製オーダースーツ生地です。
今回の記事ではそんなイタリア製のオーダースーツ生地の魅力を、詳しく掘り下げながら紹介します。これから初めてオーダーを作る方もこれまでたくさんのスーツを作ってきた方も、ぜひ参考にしてください。
イタリア製オーダースーツ生地の特徴とは?
イタリア製オーダースーツ生地の大きな特徴は、まず軽やかで柔らかでドレープ性に優れていることでしょう。紡績や加工の技術で極細繊維の原料から、巧みに細番手の糸を紡ぎ出します。そしてきめ細かい軽やかな生地を織り上げるのです。
また、渋いマット系の素材感のものもありますが、やはり光沢の美しい生地が多いといえるでしょう。まばゆい光沢を放つ生地は、まるで高級シルクのようです。
さらにルネサンスの国らしく、イメージとしては垢抜けた、洒脱で洗練された印象を与える生地が多く見られます。
光沢が煌めく美しいイタリア生地は、着る人の男の艶やかさを際立たせる効果があります。抜群のドレープ性によって、身体のラインが際立ち、動けば光沢の粒子が生地の表面を優雅に流れるでしょう。
イタリア製オーダースーツ生地の魅力を生み出す背景
イタリア製オーダースーツ生地に影響を与える要素として、イタリア特有の気候や国民性、サルトリア文化などがあり、それがイタリア製オーダースーツ生地の魅力の背景にあると考えられます。それぞれを見ていきましょう。
イタリアの気候
雨が少ない温暖な地中海性気候で、ローマの気温は年間通して東京とだいたい同じくらいです。夏の日差しは強いですが梅雨のような季節はなく、比較的乾燥しています。
イタリア半島は南北に長いので、場所によって気候に差がありますが、全般的には1年を通して過ごしやすい国です。
そのため、仕立てる服も防寒や避暑をそれほど意識することなく、着心地を最優先します。そこから、肩パッドを抜いたり芯地を減らしたり、袖ボタンが飾りではなく、本当に開けて腕をまくれるようにしたりという仕立て方につながるのです。
服作りに使用する生地も英国生地のような重厚なものではなく、軽くて柔らかいものが好まれます。
イタリアの国民性
ルネサンスの国だけあって文化や芸術、美に対する意識は高く、ファッションにも気を配る傾向があります。そんなイタリア人にとってオーダースーツは、個性を引き立てる手段のひとつです。
そのためイタリアのオーダースーツ生地は、色使いに個性と華やぎがあります。とりわけ自然豊かな国の特性を活かし、抜けるような空の青、海の深い紺碧、珊瑚の赤、木々の緑と大地の焦げ茶色など天然由来の彩りにこだわるのです。
それを自在に表現できるだけの染色技術を、イタリアの技術者は持っています。
ナポリ流・ミラノ流のサルトリア文化
オーダーメードの文化は英国でいうビスポークであり、イタリアではサルトリア文化になります。サルトリアもベースになっているのは英国ビスポークです。かつて英国貴族はナポリで長期のバカンスを楽しみました。
その際には英国からテーラーのお抱え職人をわざわざ連れてきて、ナポリでバカンス用の服を仕立てさせていました。
当時のイタリアでは英国文化に憧れている人が多く、またイタリアの職人は手先が器用であるところに目をつけた英国貴族は、ナポリの服職人にも自分たちの服を仕立てさせようと、お抱え職人をナポリの職人の指導にあたらせました。
ビスポークを習得し、ナポリ流にアレンジ
そうやってビスポークの技術を学んだナポリの職人たちは、そこにイタリア人の感覚とナポリ流やミラノ流の仕立て方をブレンドしてアレンジしていきます。それも結構大胆で斬新なアレンジが施されました。
肩パッドを使わないでシャツの袖付けのように仕立てるマニカカミーチャや、芯地を減らしたり抜いたりして軽く仕立てるセンツァインテルノ(内容物を入れないという意味)と呼ばれる仕立て方などです。
ほかにも袖ボタンの端っこを重ね合わせて並べてつけたり、ジャケットの腰ポケットや胸ポケットに半月形の、体の膨らみに沿わせるように湾曲させた、イタリア語で「船」という意味を持つ「バルカ」という付け方をしたり、袖を人体の自然な曲がり方に合わせて、アールをつけた袖のつくり方にするなどのこだわりです。
イタリアンサルトの誕生とクラシコイタリアの台頭
そうやって英国ビスポークをお手本としたイタリア流仕立ての流儀「イタリアンサルト」が生まれました。サルトが仕立てるイタリア流のクラシックスタイルは「クラシコイタリア」と呼ばれ、イタリアを中心にヨーロッパに浸透していきました。
近年ではブリオーニやキートンなどの卓越した仕立ての技術と感性を持つサルト集団が人気を呼び、ハリウッド映画で人気俳優が切る衣装を仕立てるなどで世界的に名が知れ渡ります。
日本でも1990年代後半から2000年代にかけて、「クラシコイタリア」の大ブームが巻き起こりました。その影響は現在のスーツファッションにも息づいています。
今でこそオーダースーツを作る際に肩パッドの有無や袖ボタンを重ね付けするしないなどは普通に選択できますが、クラシコイタリアブームが起こるまでは一般的ではありませんでした。
イタリアンサルトに向いた生地
クラシコイタリア調のスーツを仕立てるイタリアンサルトでは、平面の生地を丸みを帯びた立体に仕立てます。良くできたイタリアの仕立て服は「丸い服」などと表現されることがあります。
丸く仕立てるためには、手作業とアイロンワークによる癖取りや伊勢込みが欠かせない技術です。それらはクラシコイタリアの味わいを出すための外せないスパイスといえるでしょう。
丸い服を作るのに適した、伊勢込みや癖取りがしやすい、柔らかでしなやかな生地の供給をサルトリアの現場は求めました。そういう声がマーチャント(生地商社)を通してビエラの織元に伝えられます。
そうやってサルトリア文化が生地の企画や技術に反映され、長い年月をかけてイタリア製オーダースーツ生地のクオリティが今日のように素晴らしいものになったのです。
イタリア製オーダースーツ生地の代表的ブランド
最後にオーダースーツを仕立てる際の生地選びの参考に、イタリア製オーダースーツ生地の代表的ブランドを紹介します。ブランドの詳細情報や生地づくりのストーリーは、それぞれを特集した記事があります。興味がある方は、ぜひそちらもご覧ください。
エルメネジルド・ゼニア( ERMENEGILDO ZEGNA)
世界中のエグゼクティブの羨望を集める、押しも押されもせぬオーダースーツ生地ブランドです。クオリティや機能性、美しさ、仕立て映えなどをそれぞれ高い水準で包括的に兼ね備えた生地として、万人が評価する現代のスーパーブランドといえるでしょう。
エルメネジルド・ゼニアとは?~オーダースーツ生地ブランドの解説
ロロ・ピアーナ(Loro Piana)
ラグジュアリーの代名詞ともいえるブランドで、最高級のカシミヤ と最高級のウールを扱う生地メーカーとして100年近い歴史を持っています。毎年オーストラリアで収穫されるトップレンジの原毛の40%近くを買い付ける原料へのこだわりが特徴です。
ロロ・ピアーナの百年に迫る歴史を映すラグジュアリー感こそオーダースーツの醍醐味
ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(Vitale Barberis Canonico)
ビエラを代表する、3世紀半に渡って良質な生地を生み出し続けてきた「世界最古のミル」といわれるブランドです。生地のしなやかさや色の冴えと深みは他社の追随を許さないグレードで、エンドユーザーの内なる魅力を増幅して外見に反映してくれるでしょう。
カノニコとは?|有名スーツ生地ブランド解説|オーダースーツの基礎知識
カルロ・バルベラ(CARLO BARBERA)
1949年に創業されビエラでも名門の老舗ブランドです。フランネルをはじめ、クラシコイタリアの「粋」を感じさせる上質なスーツおよびジャケット生地を展開しています。糸が本来持つ天然の素朴な風合いを活かした生地作りが、世界から高く評価されています。
カルロ・バルベラの生地で仕立てるオーダースーツに高く薫るクラシコイタリアの「粋」
アンジェリコ(ANGELICO)
オーダー向けやデザイナーズブランド向けおよびアパレルメーカー向けなどに幅広く使用され、世界的にも認知されている生地ブランドです。洗練された柄と素材感には定評があります。特にトレンド性やファッション性が高いジャケット生地は高い評価を得ています。
アンジェリコとは?品質と感度、費用対効果のすべてを享受できるオーダージャケット生地
チェルッティ(Cerruti)
イタリア5大生地メーカーに数えられる実力派の生地ブランドです。老舗にもかかわらずトレンドに挑むような、斬新なデザインの生地も積極的に展開しています。ファンシーな素材感を得意とし、ビジネスから華やかなシーンまであらゆる機会にお洒落を楽しめます。
選ばれた老舗チェルッティのオーダースーツ生地に漂う品格と醸し出る洗練度
ドラゴ(DRAGO)
上質な糸および生地の製造において、世界最高水準の生地ブランドです。超高級糸を世界の主要生地ブランドに安定供給しますが、極上品質の糸だけは自社ブランドのみで使用して差別化を図っています。そのため、世界のトップブランド群が顧客として名を連ねています。
至高の煌めきが着る人の存在感を際立たせるドラゴ(DRAGO)のオーダースーツ生地
レダ(REDA)
150年の歴史の中で培われた技術と一貫生産体制により、安定した品質を多種多様な生地で実現しています。比較的コストパフォーマンスが良いので、エグゼクティブを目指す途上にあるビジネスパーソンが自身のスタイルを確立するために最適な生地です。
レダ(REDA)とは高級感と耐久性、価格優位性が共存する稀なオーダースーツ生地
タリア・ディ・デルフィノ(TALLIA DI DELFINO)
イタリアのテキスタイル業界の中で信頼度が最も高い部類の生地ブランドです。日本でも多くのテーラーが取り扱い、多くのアパレルメーカーも取引しています。イタリアンテイストで、今の時代にふさわしい洗練されたオーダースーツ生地を打ち出しています。
タリア・ディ・デルフィノのオーダースーツ生地は120年の伝統を今の感性で彩る生地
トラバルド・トーニャ(Trabaldo Togna)
創業から180年間という長い歴史の中で品質向上の歩みを一度も止めなかったミルのブランドです。最高クラスのオーストラリア産極細繊維のウール、貴重なモンゴル産のカシミヤほか、希少な高級獣毛繊維をブレンドした混紡ウール素材などで定評があります。
トラバルド・トーニャの現在進化形の伝統が生むオーダースーツ生地の高級感と躍動感!
ピアチェンツァ(PIACENZA)
ビエラに拠点を構える、長い歴史を持つブランドで、とりわけ高級獣毛素材には定評があります。科学的な繊維および織物の構造の研究や製品の厳格な検査、原料とする素材の選定に至るまで、良質なオーダースーツ生地の開発のためには努力を惜しまないスタンスです。
ピアチェンツァは類い稀なる高級獣毛オーダースーツ生地の権威あるブランド
ノヴァラ(NOVARA)
シルク生地のスペシャリストとして国際的に評価されている生地ブランドで、ゼニアグループの一員です。繊細で傷みやすい超極細のシルク繊維を紡績し、美しいオーダー生地として製品化する高い技術を誇るシルク専業ブランドの最高峰といえるでしょう。
ノヴァラ(NOVARA)はゼニアも認めるシルクのオーダー生地のスペシャリスト
ラルスミアーニ(LARUSMIANI)
カシミヤのようにきめ細かく柔らかいコットンで有名な、創業100周年を迎えたオーダー生地ブランドです。コットンスーツやコットンジャケットに最適な素材を提供しています。革新的で、イタリアとフランスのデザイナーのニーズを満たせるハイクオリティです。
ラルスミアーニのオーダースーツ生地はまるでカシミヤのたおやかさを持つコットン素材
さいごに
イタリア製オーダースーツ生地には、イタリア人の美意識や気候、国民性、サルトリア文化のエッセンスが織り込まれています。英国クラシックをベースとしながらも、英国生地では味わえない「粋」や「艶」が魅力です。
オーダースーツのビギナーの方、ベテランの方のいずれも、次回にオーダースーツを購入する際にはここで紹介した情報も参考に、イタリア製オーダースーツ生地も選択肢に加えてみるのではいかがでしょうか。
監修者
小林英毅(銀座英國屋 代表取締役社長)
1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。 オーダースーツ銀座英國屋の3代目社長。 青山学院大学ファッションビジネス戦略論・一橋大学MBA・明治大学MBA・ネクストプレナー大学にてゲスト講師。 銀座英國屋は、創業80年。東京銀座・オークラ東京・大坂梅田・大阪あべのハルカス・京都に店舗展開。
ビジネスウェアを選ぶ際の「どなたから、信頼を得たいか?」という視点を軸に、オーダースーツについて、お役に立つ情報をお届けいたします。
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