オーダースーツを仕立てる際に、生地の価格の違いは仕立て映えや着心地にも影響するといわれます。「高いから良い」と一概には言えないものの、高額の生地には、それらの付加価値をもたらす理由があるのです。

今回の記事では、高いスーツ生地と安いスーツ生地の基準と、それがもたらすものについてわかりやすく解説します。オーダースーツを仕立てる予定があるみなさんは、ぜひ生地選びの際の参考にしてください。

高いスーツ生地と安いスーツ生地の基準とは？

高いスーツ生地と安いスーツ生地の違いの、最たる基準となるものは「羊毛原料の繊維の質」です。そして羊毛原料の繊維の質は、個々の繊維の細さ（断面の直径）で決まります。

スーツの場合はウーステッドと呼ばれる、梳毛系の比較的薄手の生地を使うのが基本となり、ウーステッドの品質を極める要素の中で、重要なもののひとつが「スーパー表記」で表現される繊維の細さです。

「スーパー100’ｓ」や「スーパー120’ｓ」という言葉を耳にしたことがあると思いますが、「スーパー100’s」とは、その生地に使用される原毛の断面の平均が18.5ミクロンということです。「スーパー120’s」ですと17.5ミクロンとなり、スーパー表記の数字が大きくなる程、細くて繊細な原毛を使用しているという事になります。

つまり、ウールなどの繊維はスーパー表記の数字が大きいほど細く、小さいほど太くなります。

なお、スーパー表記と混同されがちなのが「番手」です。スーパー表示は原料の繊維の細さを表現する方法で、番手は原料から作った糸の細さを表現する方法です。たとえば「スーパー100’sのウールを使った80番の糸」のような使い方です。

スーツ生地の「高い」「安い」の基準スーパー表記

ウール原料のスーパー表記と繊維の細さ（繊維の断面の直径）の関係は、以下のようになります。

スーパー80’s ：19.5ミクロン

スーパー90’s ：19.0ミクロン

スーパー100’s：18.5ミクロン

スーパー110’s：18.0ミクロン

スーパー120’s：17.5ミクロン

スーパー130’s：17.0ミクロン

スーパー140’s：16.5ミクロン

スーパー150’s：16.0ミクロン

スーパー160’s：15.5ミクロン

スーパー170’s：15.0ミクロン

スーパー180’s：14.5ミクロン

スーパー190’s：14.0ミクロン

スーパー200’s：13.5ミクロン

スーパー210’s：13.0ミクロン

スーパー220’s：12.5ミクロン

スーパー230’s：12.0ミクロン

スーパー240’s：11.5ミクロン

スーパー250’s：11.0ミクロン

人間の毛髪は70～80ミクロンとされています。ウールの繊維はおおむね髪の毛の細さの1/4カシミヤの毛は14～16ミクロンなので、スーパー150’s〜190’sクラスのウールに匹敵します。シルクは12〜15ミクロンなので、スーパー170s〜230’sのウールに匹敵します。

そんなウールの粗いものから繊細なものまでを、ランク分けした目安は以下のとおりです。

同じ羊でも取れる部位によって繊維に差がある

羊にも多くの種類があります。よく名前を聞くことがある「メリノ種」の羊の毛はより繊細で、高級ウール生地として知られています。

また、同じ一頭の羊の毛でも、部位によって繊維の質は変わります。顎の下や胸元の柔らかい毛は繊維もより細く、腹部はそれより多少太めになり、体を守る背中などの外部にさらされる部分はより太くなります。

採れる分量が、細い繊維ほど少ないので、それによって原料の価格が変わるのです。そして、同じ羊の体毛でも、取れた部位によってスーパー表記の数字が異なります。

高いスーツ生地と安いスーツ生地の違いがもたらすもの

高いスーツ生地と安いスーツ生地の違いである、「繊維の細さ」がもたらすものを見ていきましょう。

まず細番手の糸ほど、その糸でなめらかできめ細かい表情を持つ生地を織ることができます。さらに、繊維の細さは表面の凹凸感にも影響を与えます。繊細な原料ほど、糸の表面の凹凸や起伏が少なくなるのは確実です。

表面がフラットに近いので、織り上げられた生地の表面もなめらかでしっとりとした質感を生むとともに、光を反射しやすくなります。そのため光沢を厳かに放つ生地となるのです。

また、細い繊維ほど軽やかでしなやかさを持つため着心地も良く、耐久性を最優先するのでなければ、繊維が細いスーツ生地は総合的に優れた点を多く持っています。

ただ、耐久性においては繊維が短い生地に軍配が上がりそうですが、紡績や製織、仕上げなどの加工技術の高さによって、繊細でかつ耐久性が充分にある生地も少なくありません。

さいごに

高いスーツ生地と安いスーツ生地の違いを、最も象徴するのは「繊維の細さ」です。見栄えや着心地などトータルで考えれば、繊維の細い生地の方がオーダースーツを仕立てる場合にオススメといえるでしょう。

用途にもよっても適した生地は異なりますので、生地選びに迷うことがあれば、私たち銀座英國屋にお気軽にご相談ください。

監修者

小林英毅（銀座英國屋 代表取締役社長）

1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。 オーダースーツ銀座英國屋の３代目社長。 青山学院大学ファッションビジネス戦略論・一橋大学ＭＢＡ・明治大学ＭＢＡ・ネクストプレナー大学にてゲスト講師。 銀座英國屋は、創業80年。東京銀座・オークラ東京・大坂梅田・大阪あべのハルカス・京都に店舗展開。

ビジネスウェアを選ぶ際の「どなたから、信頼を得たいか？」という視点を軸に、オーダースーツについて、お役に立つ情報をお届けいたします。

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