オーダースーツ 銀座英國屋コラム【基礎知識】なぜオーダースーツの生地は価格が違うのか?

【基礎知識】なぜオーダースーツの生地は価格が違うのか?

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オーダースーツを仕立てる際の、楽しみの1つである「生地選び」。
その中で、「同じウール素材なのに、この生地とあの生地で、なぜ価格が違うの?」と、「生地の価格の違い」を疑問に思われる事もあるかと思います。

分かりやすい例として「繊維の種類(ウール or カシミヤなど)」や「SUPER表示(原毛の細さ)」がありますが、それだけでは生地の価格は決まりません。

今回は、この「オーダースーツ生地の価格差」についてご紹介いたします。

※「自分に合う生地の選び方」については、コラム「オーダースーツの生地選びで重要な3つのポイント|オーダースーツ基礎知識」(近日中に公開予定)をご参照ください。

オーダースーツ生地の価格差の要素

オーダースーツ生地の価格差にまつわるポイントは、おおよそ以下の通りです。
・繊維の種類(自然繊維 or 化学繊維も含む)
・原毛の細さ(SUPER表示)
・原毛の白度
・糸番手
・生地織りの難易度・スピード
・関わる職人の熟練度合い
・産地国
・ブランド
(他にも、為替相場・生産ロットの大小・各テーラーの価格設定などがありますが、今回は割愛いたします。)

例として、銀座英國屋で定番としてご好評いただいている「エレガントブルー」を取り上げます。
「エレガントブルー」でのオーダースーツお仕立て税込価格は484,000円。銀座英國屋のオーダースーツは税込220,000円~という中でも、少し高級なクラスの生地です。
今回は「他のオーダースーツ生地と、どのように異なるのか」のサンプルとして取り上げてまいります。

繊維の種類(自然繊維 or 化学繊維も含む)

まずは、オーダースーツ生地の価格を左右する「繊維の種類」のご紹介です。

スーツで主に使用される繊維を、おおよその高価格順で並べると、このようになります。

カシミヤ・ウール・シルク・モヘヤ・コットン・リネン・ポリエステル・ポリウレタン・ナイロンです。

※素材のランクやブランド、取引条件などでも左右されるため、あくまでイメージとなります。
例えばウールを、カシミヤ以上の価格となる「細い糸」とすることも可能です。

カシミヤの概要・長所・短所

カシミヤとは「カシミヤヤギ」と呼ばれる、冬はマイナス30度以下の極寒、夏は30度を超える真夏日以上の環境で育ったヤギの毛です。

長所:保温性が高く、極上の触り心地。保湿性にも優れ、独特の艶と光沢を楽しめる。
短所:動物繊維のため虫食いが発生しやすい。希少性が高く、高価格。

ウールの概要・長所・短所

ウールは、羊から取れる毛(羊毛)を指し、スーツの生地としては最も代表的な繊維です。

長所:冬は暖かく、夏は涼しい(真夏以外のオールシーズンで使える)。伸縮性があり、弾力性、耐久性、抗菌・消臭機能にも優れている。
短所:虫が付きやすい。縮み易いため、家庭洗濯ではなく、クリーニングが基本。

シルクの概要・長所・短所

シルクは、絹をさします。美しい光沢感があり、肌触りも滑らかです。
スーツ生地としては、ウールと混紡で使われ、光沢感のある高級感が漂うスーツとなります。また、100%のシルク生地は、礼服用のシルクシャンタンやシルクサテンで使われます。

長所:光沢感があり、高級感がある。
短所:摩擦に弱い。色落ち・色焼けしやすい。

モヘヤの概要・長所・短所

モヘヤとは、「アンゴラヤギ」から取れる原毛のこと。通気性が高く、春夏スーツに使われます。

長所:通気性が高い、光沢感が強い、シワになりにくい。
短所:一度シワになると取れにくい。肌触りにシャリ感がある。

コットンの概要・長所・短所

コットンは、綿を指します。ツルっとした手触りが特徴で、カジュアルスーツで使われる繊維です。

長所:カラーバリエーションが豊富で、低価格。ベージュなどのパステルカラーのスーツなどが得意。
短所:縮みやすく、黄ばみやすい。色落ち・色焼けしやすい。

リネンの概要・長所・短所

リネンは、麻を指します。シワが特徴でもあり、ビジネス用スーツというよりも、ジャケットやカジュアルスーツで使われる繊維です。

長所:熱伝導性に優れており体温をすばやく放熱し、天然繊維の中では最も涼しいとされる。
短所:縮みやすく、シワになりやすい。「ネップ」と言われる生地の表面に出てくる糸の塊で、ぽっこりとしたスジが出やすい。高価格なオーダースーツ生地は、ネップが出ないように手間を掛けられているが、全てが無くなるわけではない。適度なネップは「自然な風合い」として、むしろ長所と捉えるのがオススメ。

ポリエステルの長所・短所

ポリエステルは、石油由来の合成繊維です。
金やプラチナといった金属糸を生地に織り込む際に、高価格な生地でも少量の使用をされることがあります。

長所:シワになりにくく、速乾性が高い。低価格。
短所:毛玉ができ易く、吸湿性が低いため静電気が溜まりやすい。スーツを構築的にする毛芯との相性で劣り、チープな印象になりやすい。

ポリウレタンの長所・短所

ポリウレタンも石油由来の合成繊維です。伸縮機能が高いため、低価格なストレッチスーツとして使用されます。ただし、ポリウレタンは、加水分解しやすく寿命が短いため、高価格なオーダースーツ生地では、あまり使用されません。

長所:伸縮性が高いため、オーダースーツ生地としては、ストレッチ性能を高めるために使われる。
短所:加水分解するため寿命が短く、全国クリーニング生活衛生同業組合連合会の「ポリウレタン樹脂の劣化による剥離」https://www.zenkuren.or.jp/news/2526によれば、「クリーニング事故賠償基準ではコーティング品の平均使用年数を2年としている。」とのこと。スーツを構築的にする毛芯との相性により劣化する場合がある。

ナイロンの長所・短所

ナイロンも、ポリエステルと同じく石油由来の合成繊維。ポリエステルとの違いは、合成している添加物が異なる点です。

長所:丈夫で軽く伸縮性がある。低価格。
所:吸湿性が低く、汚れが落ちにくい。また、熱に弱い。スーツを構築的にする毛芯との相性により劣化し、チープな印象になりやすい。

補足:化学繊維と合成繊維の違い

「化学繊維」は、石油系を原料とする「合成繊維」と、木材などを薬品で溶かして再生する「再生繊維」の2つに分けられます。
つまり、上記のポリエステル・ナイロン・ポリエステルも「化学繊維」ですが、石油系を原料とするため「合成繊維」と、本稿では記述しました。

エレガントブルーは、ウール&カシミヤ

エレガントブルーは、ウール&カシミヤの混紡です。
深みのある光沢・艶を表現するために、ウールとカシミヤを選定いたしました。

ウール(羊毛)の価格差について

以降では、オーダースーツ生地で最も使用されるウールの価格差の要素について、説明します。

ウール3種類

一口にウールといっても、実はさまざまな種類があります。ここでは、代表的な3種類をご紹介します。

メリノ種

最も耳にするウールが、メリノウールではないでしょうか?

羊毛の中では、最高級クラスの品種として知られています。

そして、オーダースーツ生地として最も使われているウールでもあります。

コリデール種

メリノウールよりも若干太いものの、毛質が柔らかく、編み物用の毛糸に使われています。

ロムニー種

太くて丈夫な毛質が特徴で、絨毯などに適しています。

エレガントブルーは、メリノウール

エレガントブルーは、このメリノウールを使用しています。

メリノウール原産国の違い

オーストラリア・メリノ

世界の流通量の40%を占めると言われるのが、オーストラリア・メリノです。

毛の色が白く、丈夫でしなやかな繊維質が特徴です。

世界で最も優れた品種の羊とも言われています。

ニュージーランド・メリノ

オーストラリア・メリノに次いで高い品質と言われているのが、ニュージーランド・メリノです。

世界の流通量の5%と、希少性が高いメリノです。

オーダースーツ生地としては、オーストラリア産・ニュージーランド産のメリノが最も使用されています。

フランス・メリノ

生産量が少なく、羊毛の質が個体によってバラつきがあるため、衣料用としては、あまり使用されていません。日本ではお布団の中綿用として使われています。

エレガントブルーは、オーストラリア・メリノを使用

エレガントブルーは、品質の良さを求め、オーストラリア・メリノを使用。

原毛の細さ(SUPER表示)

オーダースーツ生地のPRでよく見かけるのが、このSUPER表示ではないでしょうか?

この国際羊毛機構(IWTO)の定めた「SUPER120’s」などは、原毛の細さを指します。(例えば、「SUPER120’s」は「17.5ミクロンの原毛」を指しています。)

SUPER表示が高いオーダースーツ生地であるほど、光沢感が出て・軽く・発色が良くなり・しなやかで肌触りが滑らかになります(実際には、糸の紡ぎ方、生地の織り方・加工方法などによっても左右されます)。

そして「SUPER表示が高いほどに、繊細な原毛を使用している」ため、基本的には価格が高くなって参ります。

オーダースーツ生地の価格差(SUPER表示)
オーダースーツ生地の価格差(SUPER表示)

エレガントブルーのウールは、SUPERE 180’s(14.5ミクロン)

エレガントブルーは、SUPERE 180’s(14.5ミクロン)のウールを使用し、軽量かつソフトな手触り。
メリノウール全体の1%未満と選び抜かれた、希少性の高いウールです。

刈り取る部位

羊のどの部位の毛を使用するのか?によって、ウールの価格は変わります。

ネック(首):
毛先が荒れていたり、異物がかなり入り込んでいる。繊維自身は比較的細い。

ショルダー(肩):
一番良質なウール。

サイド(脇腹):
ショルダーに次ぐ良いウール。いくらか毛足が短いが、比較的均一なウール。

バック(背中):
風雨、日光に晒され毛先が荒れている。乾燥し、ゴミ、埃が混入しやすい。

ベリー(腹):
泥などによって、毛先がフェルト化しやすい。

ブリッジ(お尻付近):
一番繊維が太く、毛足もかなり短い。ケンプやヘアーが含まれることもありフェルト化しやすい。

エレガントブルーのウールは、ショルダー(肩)・サイド(横腹)のみ使用

エレガントブルーは、選び抜かれた羊の中でも、更に良質なウールを追求するため、ショルダ(肩)・サイド(脇腹)という、一頭の内、約20%程度しか取れない部分の原毛のみを選び取りました。

原毛の白度

羊毛は基本的には、「白」ではなく、色が付いているものです。
そして、オーダースーツ生地は、「染め上げる」ため、そもそもの原毛に雑色が入っていると、綺麗な色に仕上がりません。また、強く染まる方法にすると、品質が落ちてしまい、艶・しなやかさが失われてしまいます。

例えば、黒礼服地といっても、「赤っぽい」「青っぽい」「グレーっぽい」というように、「漆黒」というのは稀です。

このため、雑色が入らず、より綺麗な色のオーダースーツ生地に仕上げるためには、「原毛の白度」も重要です。

エレガントブルーは、白度の高い原毛のみを使用

エレガントブルーは「美しいダークネイビー」とするため、「白度の高い原毛」を選び抜いています。ショルダー(肩)・サイド(横腹)のみ使用するのも、その理由の一つです。

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糸の細さ(糸番手)

原毛のままでは、オーダースーツ生地を織れません。原毛を紡いで糸にする必要があります。

よく混同されるのが、SUPER表示と糸番手です。
SUPER表示は「原毛の細さ」を指し、糸番手は「糸の細さ」を指します。

敢えて、ハリを出すために、太い糸(低い糸番手)にすることもあります。
例えば、同じSUPER表示の原毛を使用しても、イギリス生地とイタリア生地とでは、一般的にイギリス生地の方が、少し太く紡がれた糸(=少し低い糸番手)を使うため、ハリのある生地になります。

細番手 90~110番手
中番手 60~80番手
太番手 30~50番手

この糸番手も高いほど、基本的には価格が高くなります。
ただし、前述の通り、ハリのある生地とするために、あえて糸番手を低くしているケースもあります。

エレガントブルーは、120番手の糸

エレガントブルーは、一般的な細番手よりも細い120番手の糸を使用。
このため、光沢感に優れ、しなやかで軽く、発色が豊かで、肌触りも滑らかなオーダースーツ生地となっています。

生地織りの難易度・スピード

オーダースーツ生地を織るスピードが速いほどに、大量生産ができます。

しかし、糸が細くなる(細番手、高い番手)ほどに、より繊細な糸の風合いを損ねないようにするため、生地織りの難易度が上がり、織るスピードは遅くなります。

例えば、低価格品(大量生産品)のスーツ生地を織る場合、エアージェット型織機を使用しますが、750回転/分と言われています。
一方、高級オーダースーツ生地を織りあげる、英国生地ブランドBOWER ROEBUCK(バウワーローバック)社では、通常、織機回転数を70番手双糸〜80番手双糸で370回転/分、90番手双糸〜の場合270回転/分と設定しています。

このように、細番手になるほどに、その風合いを活かすには織るスピードを遅くするので大量生産ができません。このため、基本的には価格が高くなる傾向があります。

エレガントブルーは、通常の細番手の半分以下の織りスピード

一般的に90番手で細番手と言われる中、エレガントブルーは120番手を使用しており、その糸の繊細さを活かすために様々な工夫をしています。

具体的には、エレガントブルー専用にチューニングしたドルニエ織機を使用し、さらに生地の横糸の打ち込む速度は、通常の細番手(90番手)の時よりも抑えています。

これらの工夫によって、独特のハリと柔らかな風合いの両方を備えたオーダースーツ生地となりました。

関わる職人の熟練度合い

羊の育成・毛の刈り取り・毛の選別・生地織りetc…様々な工程で、職人が関わります。
基本的には、希少性が高、繊細な繊維を扱う方は、高い技術を保有する熟練職人であることが多いです。

また、高品質・繊細な生地であるほど、織り上がった生地にキズ・汚れが無いか、何度も・ゆっくり・入念にチェックします。

このため、高品質・繊細な生地であるほど基本的には価格が高くなります。

産地国

最後の整理加工を行った国を「産地国」としますが、産地国によっても価格の差があります。
高い生産国順に並べて記載します。なお、ブランドを含めた様々な要素によっても価格が異なるため、あくまでもイメージです。

イギリス生地

伝統的な色柄で、双糸を使いハリがあり、ビジネス向き。
高品質で、生産量が少ないため、少し高い印象。
(エレガントブルーは、イギリス生地です。

イギリスの生地ブランドのBOWER ROEBUCK(バウワーローバック)社に生産いただきました。)

イタリア生地

単糸を使い、しなやかな風合いが多い。
世界中で販売しており生産量も多いため、中~高価格まで幅広い。

日本生地(国産生地)

様々な製品の中で「国産=良い・高い」というイメージがありますが、オーダースーツ生地については、「紺・グレーが中心で、色柄が少ない」という異なるイメージがありました。

また、化学繊維の混紡生地も多く、機能性(ex:ストレッチ、撥水)をアピールする生地が多い印象です。

最近では、高品質な日本製のオーダースーツ生地も出てきました。
例えば、銀座英國屋で最もオーダーいただいている「銀座英國屋の黒礼服地 for 3season(税込価格330,000円~)」も、日本の尾州で織られています。濃染加工による「漆黒」・撥水加工・ナチュラルストレッチ・帯電防止加工・両面加工と高い機能性を持ちながらも、日本ならではの軟水を使用しているため、柔らかな風合いの礼服地です。

日本のテーラーとして、今後、さらに高品質なオーダースーツ生地が日本から生まれることに期待しています。

中国生地

大量生産を基本としており、量販店などに向けたリーズナブルな生地が多い印象です。

高速で仕上げていくため、強度が必要となり、ポリエステル混紡の生地が比較的多くなります。

ブランド

ブランドによっても、やはり価格差があります。

ここでは、一律に語れないため詳細は割愛いたします。

注意:生地だけで、スーツの品質は決まらない。

よく「有名オーダースーツ生地ブランド〇〇の、オーダースーツ生地を使った最高級スーツ」といった広告を見かけますが、スーツの品質は生地だけでは決まりません。

オーダースーツの品質を左右する要素を大まかに挙げても、オーダースーツ生地・副資材(ボタン・毛芯など)・カウンセリング・フィッティング・縫製と、5つの要素があります。
例えば、最高級オーダースーツ生地を使用したとしても、その生地を活かせる縫製ができなければ、「最高級のスーツ」とは言いきれません。

今回は「生地の価格差」について説明しましたが、「生地だけで、スーツの品質は決まらない」という点も、是非おさえていただければ幸いです。

オーダースーツ生地以外のテーラーの比較ポイントについては、【結論】オーダースーツ専門店 の選び方|カギは「着る目的の明確化」&「無料相談」をご参照ください。

さいごに

いかがでしたでしょうか?

オーダースーツ生地の価格差の要素について、解説させていただきました。

実際にオーダースーツ生地を選ぶ際には、肌触り・顔映りをご確認いただくのがオススメです。

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監修者

オーダースーツ銀座英國屋 代表取締役社長 小林英毅

小林英毅(銀座英國屋 代表取締役社長)

1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。 オーダースーツ銀座英國屋の3代目社長。 青山学院大学ファッションビジネス戦略論・一橋大学MBA・明治大学MBA・ネクストプレナー大学にてゲスト講師。 銀座英國屋は、創業80年。東京銀座・オークラ東京・大坂梅田・大阪あべのハルカス・京都に店舗展開。

ビジネスウェアを選ぶ際の「どなたから、信頼を得たいか?」という視点を軸に、オーダースーツについて、お役に立つ情報をお届けいたします。

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