オーダースーツ 銀座英國屋コラム神の繊維ビキューナとは?|お店の選び方・比較ポイント|オーダーコートの基礎知識
神の繊維ビキューナとは?|お店の選び方・比較ポイント|オーダーコートの基礎知識
神の繊維。そのような最高の賛辞で呼ばれる服地がビキューナです。
南米のアンデス山脈に生息するラクダ科の動物ビクーニャから、ごく僅かだけ採取できる、希少な体毛から紡ぎ出されます。数ある毛織物のなかで風合い、手触り、光沢などにおいて最高水準の、幻の超高級素材といっても過言ではありません。
服地としては桁外れに高額な獣毛素材であるのにもかかわらず、世界中のセレブリティやエグゼクティブを惹き付けてやまないのです。なぜそれほどまでに、ビキューナは人気が高いのでしょうか?
今回はそんなビキューナの魅力に迫り、お手入れ方法やオーダーするお店の選び方などについても紹介します。
目次
アンデスの女王から採れる神の繊維ビキューナ
ビキューナ(英語名:Vicuna)の名前は、南米の言語であるケチュア語でビキューナの原毛を採取できるラクダ科の動物を指すビクーニャ(Vicugna)に由来します。
発音は国や地域によって変化しますが、日本では動物を「ビクーニャ」、その体毛から作られる毛織物を「ビキューナ」と呼び分けるのが通例です。
ビクーニャは長い睫毛がふちどる黒い瞳や、すらりとした首から漂う気品により、「アンデスの女王」と呼ばれています。
そんなビクーニャは北米にルーツをもつラクダ科に属し、すべてのラクダ科動物の中でも群を抜いた良質な獣毛繊維が採れるのです。
高原で生きるのに適したビクーニャの体から採れる繊維ゆえの、価値と希少性を紐解いてみましょう。
最高レベルの繊細な獣毛がビキューナ
アンデス山脈の空気が希薄な高原に生息するビクーニャは、呼吸に苦しむことなく最高時速70kmのスピードにて高原を駆け回ります。そして極寒に耐えられるよう、優れた保温性を備えている体毛が際立った特徴です。
アンデスの高みにおける、そのような過酷な自然環境で生きるビクーニャから採れる体毛の毛質は、一般的な飼育環境で育つ動物から採れる体毛のそれと一線を画しています。
直径が11~14ミクロン、長さにおいて約30mmの繊細な長繊維のビキューナは、比類ない高貴な煌めきを放つ、高級獣毛素材の中でも圧倒的な存在感を持つ素材です。
ビキューナが類い稀な希少価値を持つ理由
ビキューナの原毛は1キログラムあたり日本円で数十万円はするだろうといわれる、超高額な獣毛素材です。それもそのはずで、2 年に1度しか許可されていない剪毛作業(毛を刈り取ること)で得られる原毛の量たるや、ビキューナ1頭につき実に200〜300g程度の収穫しかありません。
さかのぼると1960年代頃、ビキューナの金色に輝く繊細な毛質の素晴らしさから毛皮の需要が沸騰し、ビクーニャの乱獲が行われました。その結果として、ビクーニャの個体数激減を招いたのです。
貴重な資源であるビクーニャの深刻な状況を重く見たペルー政府は、その後ビクーニャを政府の保護プログラム下に置きます。現在、ビクーニャはワシントン条約によって輸出禁止措置が適用されているほど、生息数が少ない絶滅危惧種なのです。
そのため、ビキューナの採取には厳しいルールが設けられています。ビクーニャの剪毛は、それぞれの個体で2年に1度しか許可されていません。そのタイミングを見分けるため、各個体に付けられたリングが目印となります。
また、ビクーニャの剪毛作業は電動バリカンにより行われますが、ビクーニャに与えるストレスを最小限まで抑えるため、1頭あたりわずか5分で終わらせなければなりません。ストレスは、採取される繊維にネガティブな影響を及ぼすからです。
そのため作業は手際良く行われ、作業後はすぐに解放されます。ルールが遵守されているかどうかは、保護官がこまめに巡回して厳重にチェックするシステムです。
厳しい環境が生んだ良質な繊維が、さらに保護プログラムで厳重に管理する中で採取されます。その結果ビキューナという獣毛素材は、桁外れの高価に見合う類い稀な希少価値を持つことになるのです。
アルパカとビキューナ
ビキューナとイメージが近い獣毛素材アルパカ(Alpaca)は、ビクーニャの仲間であるラクダ類ラマ属アルパカから採取されます。ビキューナとアルパカは、どちらも南米アンデス山脈の高地が人類に与えた恵みです。
ふたつの特性を比較してみましょう。
ビキューナのお手入れ方法
ビキューナは高価で繊細なので、長く愛用するためにお手入れ方法にも気を配りましょう。日常のきめ細かなお手入れが大切です。
摩擦と静電気に注意
長い毛足のため毛乱れが発生しやすいので、着用した後は必ずブラッシングしましょう。繊維の目に詰まった塵などの不純物を掻き出して、毛並みを揃えるためです。それらの不純物は酸性であることが多く、生地を変色させる原因にもなります。
また、ビキューナの製品に使われる生地は、その特性を生かすために、撚りの回数が少ない甘撚りのものが多いです。そのため、力任せにブラッシングするのは基本的にはNGとなります。
摩擦や静電気の発生などに注意しておかないと、毛が抜けやすくなるからです。ブラッシングは毛足が長く柔らかいブラシで、優しく丁寧に行いましょう。
また、ブラシの品質もこだわり、廉価な豚毛や化学繊維のブラシは避けて下さい。少なくとも馬の尻尾の手を使用したブラシにしましょう。中でも、特に柔らかい尾脇毛を使った高級ブラシ(5〜12万円程度)を選ぶのが賢明です。
おすすめはやはり、羊毛を使って高い技術で作られるビキューナ専用ブラシ(15万円程度)でしょう。ビキューナ専用ブラシなら、力を入れてブラッシングしても大丈夫です。
もちろん、ビキューナ以外にもカシミヤやアルパカ、キャメルなどの高級獣毛素材に使用できます。ビキューナ専用ブラシでまめにブラッシングすれば、あまりクリーニングに出さなくても問題ありません。
ちなみにビキューナの製品をクリーニングに出す際は、信頼できる業者を選んで最上級の手洗い・水洗い・手仕上げのコースで出しましょう。そうでなければ、素材を痛めてしまうリスクがあるので注意を要します。
通常のウール製品でも、できることならクリーニングを出さずにブラッシングの手入れだけにするほうが、鮮度を長く保てるでしょう。ましてや超繊細なビキューナであれば、極力クリーニングに出さなくてよいように、お手入れには気をつけたいものです。
防虫剤を切らさないこと
よく知られている通り、繊維製品につく害虫は、まるで高価なものを狙うように高級素材を好みます。そのほうが柔らかく、かつ化学繊維や再生繊維が入っていない純度の高い天然素材なので、害虫には好物になるようです。
ビキューナのように極めて繊細で柔らかい毛質は、害虫にとって最高のご馳走になります。ビキューナ製品を長く着用するためには、汚れを綺麗にブラッシングで落とし、防虫剤を決して切らすことなく保管しましょう。
ビキューナの生地ブランドの紹介
ビキューナを提供する数少ない生地ブランドの中で、代表格である「アニオナ」と「チェルッティ」について触れておきましょう。
アニオナ/AGNONA
1953年にイタリアのフランチェスコ・イロリーニ・モが創業した「アニオナ」は、ゼニアグループの一員として高級生地や室内装飾を手がける最高級ラグジュアリーブランドです。
また、アニオナは国際アルパカ協会の主要メンバーとして、ビキューナやアルパカの販売とマーケティングの独占権を持っています。
創業当初はボルゴセージアに拠点を構え、ココ・シャネルやピエール・カルダン、バレンシアガ、ピエール・バルマンなどの当時の錚々たる世界的デザイナーに生地を提供してきました。
フランチェスコの息子であるアルベルト・イロリーニに代替わりした後も、イブ・サンローランやクリスチャン・ディオールなどの一流ブランドのプレタポルテ用の生地に採用されるほか、自社ブランドも展開し始めました。
アニオナはとりわけビキューナやカシミヤ、アルパカ、キャメル、モヘアなどの高級獣毛素材の提供で世界的評価を受け、1999年にエルメネジルド・ゼニア グループに所属して現在に至ります。
近年でも世界3大コレクション(パリ・ミラノ・ニューヨーク)に出品するデザイナーの多くが、アニオナの生地の顧客です。主だったデザイナーだけを挙げても、以下のようなファッション好きなら誰もが知っているような顔ぶれとなります。
ラルフ・ローレン、マーク・ジェイコブス、ジル・サンダー、ヴァレンティノ、カルバン・クライン、ヴェルサーチ、シャネル、ヒューゴ・ボス、エルメス、ジャンフランコ・フェレなど。
アニオナのビキューナは高水準の加工および織布技術により、素材本来の繊細さを最大限に活かしています。そのため、獣毛特有のチクチクする感覚など微塵もなく、どこまでも極上なソフトタッチを味わえるのです。
チェルッティ/CERRUTI
1881年にイギリスのハダーズフィールド、日本の尾州と並んで世界3大織物産地のひとつとされるイタリアのビエラで創業された「チェルッティ」は、イタリアきっての老舗生地ブランドです。
そのコンセプトはナチュラル・ボーン・エレガンス。「生まれつきの優雅さ」という意味です。着飾らない品格にこだわるチェルッティの生地は、世界中のデザイナーやアパレルメーカーから評価されています。
創業当時のチェルッティは、ウールや綿の生地のみを生産していました。しかし、ファッションプロデューサーである3代目オーナーのニノ・チェルッティによって、現代的なトータルファッションブランドとして生まれ変わります。
ハリウッドへの衣装協力やスポンサー業務を積極的に行い、本業の生地では世界中のアパレルメーカーに上質な生地を提供して、世界のファッション業界に影響を与えました。
その経営手腕による大きな功績として、チェルッティはイタリア5大生地メーカーのひとつとしての地位を確立します。
イタリア5大生地メーカーとはエルメネジルド・ゼニア、ロロ・ピアーナ、カルロ・バルベラ、フラッテリ・タリア・デルフィノ、そしてチェルッティです。
そんなチェルッティが提供するオーダー用のビキューナ素材は、さまざまな目付(生地1m当たりのグラム数)で展開されています。そのため、通常の厚みのビキューナよりもさらにエレガントな薄手を求めるリクエストにも対応可能です。
ビキューナコートをオーダーするお店の選び方・比較ポイント
ビキューナでコートをオーダーする際のテーラーの選び方や、比較しておきたいポイントについて見ていきましょう。
【最重要】比較ポイント① ビキューナのオーダーに慣れているか?
ビキューナは多くの人が手に触れたこともないような、極めて繊細な生地です。であるがゆえに、採寸を担当するフィッティング技術者と、実際にコート制作にあたる縫製技術者がその取扱いに慣れていなければなりません。
不慣れな人材が採寸や型紙作成、仮縫い、縫製などを行っても、クオリティが高いビキューナコートには決して仕立て上がらないでしょう。事実、非常に高額な生地のため、失敗を恐れるあまりに取扱いを躊躇ってしまうテーラーが多いです。
このため、「そのテーラーがビキューナのオーダーに慣れているか?」は、是非、ご確認ください。
比較ポイント② 現物生地を取り扱っているか?
ビキューナを扱えるお店であっても、現物生地ではなく生地サンプルで選んで海外から取り寄せするテーラーが多いでしょう。
しかし、特別高額なお買い物なだけに、現物を手にとり触れてみたり、肩に当てて鏡越しに眺めたりなどしながら検討したいものです。
ちなみに銀座英國屋ではアニオナのビキューナ現物とサンプル、チェルッティの薄手のビキューナ現物をご用意しております。
比較ポイント③ 仮縫いで使用する素材
仮縫いにどういう素材を使うかも大きなポイントです。
実際に仕立てるために使用する生地がウール素材なら、それが高級ウールであっても、仮縫いは一般的なウール素材で行ってもまず問題ありません。
しかしことビキューナに関しては違います。あまりにも繊細なのでウール素材で仮縫いをしても、上がってきたビキューナの着心地やシルエットの出方は異なるでしょう。
そのため、できるだけその風合いに近い素材で仮縫いをするのが、望ましい方法です。
銀座英國屋が仮縫いに使用する素材は、ビキューナの風合いに近い高級カシミヤ。仕立て上がったビキューナコートの着心地やシルエットとの、ギャップを感じない仮縫いに努めています。
比較ポイント④ 納期
ビキューナコートを注文してから、出来上がるまでの納期もチェックしましょう。中には3ヵ月以上かかってしまうテーラーもあります。その場合、冬に着用するためには夏の終わり頃に仕立て始めなければなりません。
あまりにも季節感が違う時期に選ぶのは、お客様にとって難しい選択になるでしょう。
銀座英國屋の納期は、およそ2ヶ月です。11月、霜月の声を聞いて来たる冬のイメージが手に取れるように思い描けるタイミングで発注しても、年末年始に控えているパーティやイベントに間に合います。
さいごに
いかがでしょうか?
ご興味のある方は、まずは各テーラーの無料相談や、銀座英國屋の無料オーダー体験をご利用になり、ビキューナの生地をご覧いただくのもオススメです。
なお、各テーラーでは、現物のご用意が無い場合も多いかと思いますので、事前に、「ビキューナの生地を見たい」とお伝えいただくと良いでしょう。
監修者
小林英毅(銀座英國屋 代表取締役社長)
1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。 オーダースーツ銀座英國屋の3代目社長。 青山学院大学ファッションビジネス戦略論・一橋大学MBA・明治大学MBA・ネクストプレナー大学にてゲスト講師。 銀座英國屋は、創業80年。東京銀座・オークラ東京・大坂梅田・大阪あべのハルカス・京都に店舗展開。
ビジネスウェアを選ぶ際の「どなたから、信頼を得たいか?」という視点を軸に、オーダースーツについて、お役に立つ情報をお届けいたします。
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