オーダースーツ 銀座英國屋コラムエルメネジルド・ゼニアとは?~オーダースーツ生地ブランドの解説
エルメネジルド・ゼニアとは?~オーダースーツ生地ブランドの解説
世界中のビジネスパーソンからの羨望を集めるオーダースーツの生地といえば、やはりエルメネジルド・ゼニアではないでしょうか。数ある生地ブランドの中で、品質や美しさ、仕立て映え、機能性などを包括的に備える生地として多くのエグゼクティブが愛用しています。
今回の記事ではそんなスーパーブランドともいえるエルメネジルド・ゼニアの歴史を紐解き、その魅力と主要な銘柄についてご紹介します。
エルメネジルド・ゼニアとは?
エルメネジルド・ゼニア( ERMENEGILDO ZEGNA) は現在、世界中のエグゼクティブから愛されるイタリアの有名なラグジュアリーブランドです。
ファッションの総合メーカーとして、メンズ&レディースのスーツやジャケットはもちろん、シャツやネクタイ、シューズからカジュアルまで、あらゆるアイテムやグッズを手がけています。
世界3大コレクション(パリ・ミラノ・ニューヨーク)にも欠かせないブランドですが、その本質は「ミル」の鑑(かがみ)です。
ミルとは、織物工場を持ち生地を製造する服地製造業者を意味します。このミルとよく対比される「マーチャント」は原料の羊毛を買い付けてミルに織ってもらい、できた製品をショップやテーラーに流通させる卸売業者です。
服地を上手にプロデュースするのがマーチャントの腕の見せどころで、有名どころは「ドーメル」や「スキャバル」など。
現代的にいえばミルはメーカーでマーチャントは商社です。そしてゼニアはとりわけオーダー生地に関して、世界最トップレベルの高品質と多くの人が認めるミルといえるでしょう。
ゼニアの歴史はこだわりの歴史
ゼニアの創業は古く、1910年です。当時18歳の青年であったエルメネジルド・ゼニアが父親の織物工場を引き継ぎ、自身が代表となって会社組織にしました。それがエルメネジルド・ゼニア社の壮大なストーリーの始まりです。
ゼニア青年の眼差しの先にあったものは「世界」
彼は当初から、イタリアやヨーロッパの枠を超えて、世界市場を視野に入れていた進取性があるビジネスパーソンでした。だからこそ、ゼニア社の織物工場で生まれる服地は、世界で最も美しいものでなければならないと強くこだわっていたのです。
父親から引き継いだ織物工場はビエラ地方のトリヴェロにあり、アルプスの恵みたる軟水が豊富に手に入りました。軟水は羊毛の洗浄や染色加工に最適な条件です。
ゼニア青年はオーストラリアやニュージーランドなどの原産国から、良質な原料を厳選して直接買い付けました。そして、紡績から染色、織布、仕上げの整理工程まで、自社工場で一貫生産する体制を構築します。
紡績機や織機にもこだわり、当時の最新鋭のものを導入して上質な毛織物の生産をダイナミックに進めたのです。
販路も従来のテーラー(仕立て職人)を相手とする卸商にとどまらず、世界の一流デザイナーに供給できるチャネルを開拓していきました。1930年代後半にはアメリカにも輸出を開始し、そこから10年も待たず世界40カ国以上に流通させるに至ります。
第二世代によってゼニアが世界を席巻
その後1960年代に工場経営を引き継ぎ、ゼニア社を近代的な企業に育て上げたのがゼニアの二人の息子、アルドとアンジェロでした。彼らは生地を供給するビジネスを、さらにグローバルに展開します。
また彼らは、最高の素材と最高のデザインはお互いに引き合うものというポリシーを打ち立てました。そして、自社素材によるオーダーやプレタポルテを扱う自社店舗を、ミラノショップとパリショップを皮切りに全世界に展開し始めたのです。
メンズもレディースも扱い、いかなるサイズの顧客にも洗練されたスタイル を提案できるショップとして、世界中のエグゼクティブやセレブリティの間で評判が高まりました。
現在ゼニアグループの経営の舵取りをするのは第三世代、つまりアルドとアンジェロのそれぞれの息子です。現在、総合ブランドと認知されているゼニアですが、オーダー生地の品質に関してはいささかの妥協も許さない初代の姿勢が引き継がれています。
生地の耳にブランド名を織り込んだ始まりはゼニア
オーダースーツを仕立てたことがある人は、生地の耳と呼ばれる端の部分に、その生地のブランド名が織り込まれているのを見たことがあるでしょう。
今では当たり前になっていますが、イタリアで、自社生地の耳にブランド名を織り込むことを始めたのはエルメネジルド・ゼニアです。今では銘柄のシリーズがたくさんあるので、シリーズ名が織り込まれています。
ちなみに、オーダーショップは生地を仕入れる際に、耳でゼニアであることがわかりますが、スーツとして仕立て上がると顧客にはわかりません。
もちろん上着の見返し部分に、ブランド名が入った長方形の織りネームと呼ばれるラベルを縫い付けますが、それは生地そのものとは別に存在するものです。
その生地が正真正銘ゼニアであることを示すためにオーダーショップは、お客様のご希望があれば、ズボンの裾の裏側で靴のかかとに当たる部分に縫い付ける「靴擦れ」に生地の耳を使います。既製品では味わえない、オーダーならではのちょっとした楽しみです。
スーツ業界におけるゼニアの不動の地位
1977年、欧米では名前がすでに通っていたゼニアは、ゼニア生地を日本のオーダーショップやアパレルメーカーに流通させるためにゼニアジャパンを設立します。しかし1980年代に入っても、日本ではゼニアはまだまだ無名でした。
当時「アルマーニ」や「グッチ」、「ヴェルサーチ」などのイタリアのコレクションブランドが大人気を呼んでいたのです。その後1990年代から2000年代にかけて、クラシコイタリアブームが到来。
クラシコイタリア協会に登録している「ブリオーニ」や「キートン」などの高級スーツがファッションフリークの羨望を集めます。
そして前述のコレクションブランドやクラシコイタリアブランドが、こぞって使用しているエルメネジルド・ゼニアという生地ブランドが、日本でも注目を浴び始めたのです。
そしてファッション雑誌で「最高級」「最高峰」などの形容詞とともに、ゼニアが取り上げられるようになります。認知度の遅れを取り戻すかのようにゼニア人気は急激に高まりました。
それが単なるブームに終わらなかったのは、品質の確かさが裏打ちしたからです。
ゼニアで仕立てたスーツを着た多くの人は、着心地の良さと着崩れの少なさに驚きを覚えました。そしてブラッシングだけの手入れで、長年愛用していてもなかなか鮮度が衰えないことにも。
そうやってエルメネジルド・ゼニアは、スーツ業界の中で不動といえる地位を築きました。
ゼニアはこんな人におすすめ
エルメネジルド・ゼニアのスーツを着て似合う人とは、一体どういう人でしょう。一流のオーダー生地であるゼニアが似合う人のイメージとしては、「一流の人」ではないでしょうか。
一般的に一流の人といえば、優良企業の経営幹部や敏腕弁護士、高名な指導者、人気に実力が伴う芸能人などです。しかしそれだけではありません。一流という条件はもっと広く、地位や年齢、年収などに左右されるものではないのです。
無名でも、若くても、役職がなくとも、自分の行動哲学と成功への戦略を持って未来に向かう人こそが一流であり、ゼニアを着こなせるでしょう。
ゼニア生地の特徴と魅力とは?
ゼニアこそがオーダー生地の、ひとつの理想形だと考える人がたくさんいます。エルメネジルド・ゼニアのオーダー生地の特徴をひと言でいえば、イタリア生地らしい美しさと英国生地のような堅牢さを兼ね備えた、文武両道的な生地です。
繊細さや華やぎと質実剛健な面が同居する、類まれな生地といえるでしょう。また、シーズンごとに価格帯は同じでもグレードを上げ続け、原料も最高のものにこだわり、先端テクノロジーの導入も緩めないストイックなモノ作りの姿勢も魅力です。
ゼニアは一流の地位を確立していてもなお、おごることなく昨日のゼニアの上を目指します。常に新しいゼニアであり続けるからこそ、世界中のエグゼクティブから一番のお気に入りとしての信頼を集められるのです。
ゼニア生地の主なシリーズ
エルメネジルド・ゼニアのスーツ生地はさまざまな銘柄がシリーズ化されています。ここでは代表的なシリーズの概要を紹介しましょう。
高級生地の究極:ミルミルシリーズ
ミルミルシリーズはゼニア銘柄の中でも、最高品質とされる以下の3銘柄です。
・15milmil15(クインディッチ・ミルミル・クインディッチ):通称15ミルミル
・14milmil14(クワトロディッチ・ミルミル・クワトロディッチ):通称14ミルミル
・13milmil13(トレディッチ・ミルミル・トレディッチ):通称13ミルミル
これらの触り心地は、まさにシルクやカシミヤのようになめらかです。一風変わったネーミングですが、この13〜14の数字はそれぞれ13ミクロン、14ミクロン、15ミクロンという繊維の細さを表現しています。ちなみに1ミクロンは1,000分の1ミリです。
シルクは12〜19ミクロンで、カシミヤは12〜16ミクロンなので、ミルミルシリーズは大袈裟ではなくシルクやカシミヤに匹敵する極細繊維からなる最高級生地といえます。
スーパー表示に置き換えると15ミルミルはスーパー170’s、14ミルミルはスーパー190’s、13ミルミルは実にスーパー210’sです。服地の最高峰とされるゼニアの中でも、これらはひときわまばゆい光沢を放ち、高い品格を漂わせる生地となります。
詳細はコラム:ゼニアのミルミル(milmil)シリーズとは?(15milmil15・14milmil14)│オーダースーツ人気ブランド生地の解説!をご参照ください。
極上の原料はシルクと見紛う繊細さ:トロフェオシリーズ
トロフェオ(TROFEO)は優勝トロフィーに由来する銘柄です。毎年エルメネジルド・ゼニア社がブリーダーを集めて開催する「オーストラリア原料品評会」にて、優勝トロフィーを手にしたブリーダーが厳選した原料からトロフェオは作られます。
15ミルミルに続く、16ミクロン級の超極細繊維を使用したスーパー150’s素材です。まさにシルクと見紛うほどの、極上の光沢となめらかさが味わえるでしょう。
トロフェオはほぼオールシーズン着用できますが、特に秋冬向けとしてカシミヤと混紡したトロフェオ・カシミヤと、同じく春夏向けとしてシルクと混紡したトロフェオ600があります。
なお、トロフェオに関してはコラム:「ゼニアのトロフェオとは?|オーダースーツ人気ブランド生地の解説!」、さらに詳しく紹介していますので、ぜひ参考にご覧ください。
※銀座英國屋 銀座一丁目レンガ通り店では、ゼニア「トロフェオ」の現物をご覧いただけます。
名実ともに高品質:ハイパフォーマンスシリーズ
ハイパフォーマンス(HIGH PERFORMANCE)スーパーファイン糸に強力に撚りをかけた「強撚糸」を用いた生地です。強撚糸の持つ弾力性による強い回復力によって、シワになっても元の綺麗な状態を復元しようとして戻ります。
ゼニア社のフィジカルな技術面を反映して触り心地はシャリ感があり、高温多湿な気候でも快適に過ごせる素材です。
ハイパフォーマンスは2種類あります。細番手の糸を使用したきめ細かい素材感の生地と、フレスコ織(ポーラ)のようにざっくりとした素材感の生地です。いずれもナチュラルストレッチの機能により、生地の伸縮性に優れた動きやすいスーツになります。
ヴィンテージとは一味違うクラシック:ヘリテイジシリーズ
ヘリテイジ(HERITAGE)シリーズは、ゼニア社が保有する1930年代頃の自社生地のバンチサンプル(見本帳)をもとに、当時の生地を現代的に復刻したものです。
もちろん時代背景も価値観も大きく異なるので、そのままずばりを復刻するのではありません。ヴィンテージクロスならではの味わい深い柄や色合い、風合いはそのままに、最新のテクノロジーにて軽量化し、耐久性や回復力の機能性を上げています。
原料に用いるのは、良質のオーストラリア産スーパーファインウール。ヴィンテージとはひと味違う、現代に通じる洗練度を加えたクラシックであり、大人のスーツとなる素材です。
アグレッシブに活動する人材に:トラベラーシリーズ
トラベラー(TRAVELLER)シリーズは、その名の通り旅行や出張の際に着用する目的にフォーカスして作られた生地です。シワに対する強さは群を抜いています。
そもそもシワになりにくい生地ですが、それでも1日活動すると多少なりともシワが残ることもあるでしょう。しかし、宿泊先で霧吹きをするか湯気を当てるかして、一晩ハンガー掛けしておけば、翌日には綺麗に戻っています。
シワに対する強さの秘密は、第一に強く撚りをかけた双糸(ダブルツイスト糸)の持つハリとコシです。第二に、その糸を生地として織り上げる段階で、高い技術を伴う防シワ加工を施しています。
また、双糸を使うと一般的に生地の厚みが増す傾向がありますが、トラベラーはそうなりません。一般的な生地より細い番手の糸を用いるので、むしろ軽量感があります。アグレッシブに活動する人におすすめしたいオーダー生地です。
詳細はコラム:ゼニアのトラベラーとは?│オーダースーツ人気ブランド生地の解説!をご参照ください。
注文服用のスタンダード:エレクタシリーズ
エレクタ(ELECTA)シリーズは現行銘柄の中で、最も歴史が古いロングセラーのシリーズです。もともとはゼニア独自のオーダーであるス・ミズーラ用の生地として開発された、ゼニアのアイデンティティを体現するオーダー生地のスタンダードといえるでしょう。
ラテン語の「秀逸」を意味する名前が冠されたエレクタは、スーパー110’sのウールを用いた、他の軽量化されたシリーズの生地と比べると重厚感がある生地です。
仕立て栄えでは定評があり光沢と耐久性に優れ、シワに対しても非常に強いので安心してオーダーできます。
※銀座英國屋 銀座一丁目レンガ通り店では、ゼニア「エレクタ」の現物をご覧いただけます。
詳細はコラム:ゼニアのエレクタとは?|オーダースーツ人気ブランド生地の解説!をご参照ください。
熱帯でのビジネスを心地よく:モヘアトロフィーシリーズ
モヘアトロフィー(MOHAIR TROPHY)シリーズは南アフリカで採れる上質なモヘア(アンゴラ山羊の毛)を使用した、熱帯向けの素材です。モヘアの特性である優れたハリとコシ、光沢が特徴です。
他のゼニア生地に比べて柔らかさは劣りますが、弾力性があってシワにも強い生地です。通気性も高く清涼感があって、熱帯地方で働くビジネスパーソンでも快適に着用できます。
さいごに
エルメネジルド・ゼニアは長い歴史があるだけでなく、創業者から受け継ぐこだわりが底流を支えている生地ブランドです。
ひとつひとつの銘柄にコンセプトがあり、なおかつシーズンごとにグレードを向上させる徹底ぶりが、絶大な信頼を引き寄せるのでしょう。
この記事をご覧になってゼニアに興味を持たれたみなさんは、まずはテーラーの無料相談(や無料オーダー体験)を活用いただき、生地をご覧いただくと良いと思います。特に、「思ったよりも派手だった・明るかった」が起こりにくく、かつ、その質感を感じやすい現物生地を展示しているテーラーがオススメです。
監修者
小林英毅(銀座英國屋 代表取締役社長)
1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。 オーダースーツ銀座英國屋の3代目社長。 青山学院大学ファッションビジネス戦略論・一橋大学MBA・明治大学MBA・ネクストプレナー大学にてゲスト講師。 銀座英國屋は、創業80年。東京銀座・オークラ東京・大坂梅田・大阪あべのハルカス・京都に店舗展開。
ビジネスウェアを選ぶ際の「どなたから、信頼を得たいか?」という視点を軸に、オーダースーツについて、お役に立つ情報をお届けいたします。
最近の投稿
-
2024年12月3日
オールシーズンスーツとは?春夏・秋冬物との違いと使い分けのコツ
-
2024年11月22日
サラリーマンのスーツは何着必要?失敗しない選び方と着こなしマナーを解説
-
2024年11月16日
大学入学式のスーツはどう選ぶ?男性向けに選び方と着こなし方を解説
-
2024年11月8日
モーニングコートはいつ着る?燕尾服との違いと着こなしマナーを解説
-
2024年10月28日
ブラックスーツとは?ダークスーツとどう違う?着こなし方を解説