モーニングコートは、礼服の中でもっとも格式が高い「正礼装」と呼ばれる装いの一種です。日中に着用するもので、夜の正礼装である燕尾服とは区別されます。

一般的なビジネススーツに比べ、さらなる品格が求められる服装だからこそ、モーニングには、着用時のルールやマナーが細かく決められています。

そこで、この記事ではモーニングコートを着るうえで知っておきたい基本として、燕尾服との違い、着用場面、着用時のマナーなどをわかりやすく解説します。

モーニングコートとは？

モーニングコートとは、男性向けの礼服のうち、主に日中に着用する正礼装のことです。前から後ろの裾にかけて、曲線的に作られたコートをあわせるスタイルとなります。単に「モーニング」、もしくは「モーニングコート」と表現されることも。

礼服は、格式が高い順に正礼装、準礼装、略礼装があり、このうちモーニングコートはもっとも格式が高い装いです。あくまでスーツの一種に分類され、冬場に着る防寒アウターとしてのコートとは異なります。

モーニングコートと燕尾服の違い

モーニングコートと燕尾服は、どちらも「ジャケットの後ろ側の裾が長い」など似ているところがあるものの、明確に違う装いです。

着用場面としては、モーニングコートは主に18時までの日中に着用するのに対し、燕尾服は夜間の着用がメインとなります。

デザイン面にも違いがあります。

ジャケットの作りは、燕尾服の前裾はスクエアにカットされ飾りボタンが６つ付いており、下襟（ラペル）には拝絹（はいけん）と呼ばれるシルク素材で光沢ある生地が付けられています。モーニングコートは１つボタンで裾は大きくカーブしており、拝絹は付いていません。

燕尾服のスラックスはジャケットと同じ生地で作られており、両脚の側面に側章（そくしょう）と呼ばれる飾りテープが2本付いています。モーニングコートのスラックスはコールパンツで、側章はありません。

モーニングコートのデザインと特徴

モーニングコートは、通常のスーツとデザイン面で異なる特徴がいくつかあります。

ジャケット

モーニングコートのもっとも分かりやすい特徴は、ジャケットの後ろ側が長く伸びている点です。このようにジャケットの裾が長く伸びている形状の上着を「コート」と表現します。ちなみに夜の正礼装である燕尾服のジャケットも裾の後ろ側が長く、英語ではtail-coat（テールコート）と呼ばれています。

正面はシングル１つボタン留めです。前側の裾はボタンの下あたりからなだらかな曲線を描いて後ろ側の裾に近づくにつれて長くなります。襟はピークドラペルと呼ばれる先端が上方向に尖った形状です。

なお、後ろ側の裾が長い作りからこそ、モーニングコートを着たまま椅子に座ると、裾を敷いてしまうことになります。これを避けるため、着席時は裾を左右に分けてお尻に敷かずに座ります。

スラックス

モーニングコートのスラックスは、コールパンツと呼ばれる黒とグレーの縦縞が入ったものを穿きます。「コール」はひも状の縞模様を表したコード・ストライプが由来とされています。裾先はフォーマル度合いが高いシングル仕上げのみです。

着用時は、ベルト留めではなく、サスペンダーを装着して吊るす形となります。

なお、モーニングコートとディレクターズスーツで使うパンツは、同じものです。この2つは上着のみが変わるスタイルとなります。

あわせるアイテム

モーニングコートを着用するにあたっては通常のビジネススーツには登場しないものがあります。ここでは各アイテムについて具体的に解説します。

シャツは、白無地のレギュラーカラーシャツを着用します。

ベストは、シルバーベストまたはジャケットと共生地の黒ベストを着用します。黒のベストを着用するときは白襟を付けることがあります。モーニングコートで着るベストは「ウエストコート」と呼ぶことがあります。

ネクタイは、シルバーの無地またはストライプを締めるのが基本です。蝶ネクタイではなく、通常の結び下げのものを使います。なお、弔事で正喪服としてモーニングコートを着用するときは黒無地の弔事用ネクタイを締めます。

ベルトは使わず、グレー無地または黒無地のサスペンダー（吊りベルト）を使います。もともとスラックスはベルト留めではなく、サスペンダーで吊るして着用するのが留め方の起源と言われています。

革靴は黒の内羽根式・ストレートチップを合わせるのが一般的です。

ポケットチーフは白無地で麻素材のものを挿します。挿し方はフォーマル度合いが高いスリーピークスです。

モーニングコートの着用場面

ここでは、モーニングコートを着用する場面について具体的に説明します。

前提として、礼服は特別な儀式や式典などで着る衣裳のことです。求められる格式の高さによって正礼装、準礼装、略礼装があり、略礼装以外は着用する時間帯によっても衣装が変わります。

このうち、モーニングコートは日中に着用する正礼装にあたり、夜の正礼装である燕尾服と並んでもっともフォーマル度合いが高いスーツです。燕尾服は宮中晩餐会や国家レベルの記念式典のような慶事のみで着用するのに対し、モーニングコートは慶事と弔事の両方で着用します。弔事で使うことができる唯一の正礼装です。

慶事で着用する場面

モーニングコートを慶事で着用する場面としては、園遊会、叙勲、地鎮祭や竣工式などの記念式典、祝賀会などの主催者、結婚披露宴に新郎新婦の父親として出席するときなど。

こうした場面のうち日中に開催されるものについては、その場の格式を下げないために正礼装であるモーニングコートを着用することが求められます。

もっとも結婚披露宴に関しては、近年では昼夜問わずモーニングコートを着用するケースが増えています。これは夜の結婚式が減少しているということに加え、新郎新婦の父親はモーニングコートで臨むのが日本で定着しているためです。

そのため、新郎新婦の父親として結婚披露宴に出席する場合は、着用する時間帯に関わらずモーニングコートをおすすめいたします。また、着用するに際しては両家の格を揃えるため、お相手の父親の服装も事前に調べておいた方が良いでしょう。

弔事で着用する場面

モーニングコートを弔事で着用する場面としては、正式な葬儀、告別式、一周忌までの法要、お別れの会、偲ぶ会など。

喪服には格式が高い順に正喪服、準喪服、略喪服があります。このうちモーニングコートは正喪服として着用します。故人の遺族や親族、具体的には喪主やその配偶者、故人のご兄弟などの近親者の方が、お葬式から一周忌の間までの法要などで着用することが正しいとされています。

慶事ではベストがシルバーまたは黒のいずれかでした。これに対して、弔事では着用できるのは黒ベストのみです。その際、ベストの襟に付けられている白襟は必ず外します。スラックスはグレー地に黒のストライプのズボンを着用します。

シャツは慶事と同じ白無地で構いません。ネクタイは黒無地を結び下げで締めます。

その他、ポケットチーフをはじめ、装飾性があるものは全て外して臨みます。これは通常の弔事のマナーと基本的に同じです。

モーニングコートを選ぶポイント

ここでは、実際にモーニングコートを選ぶときのポイントを紹介します。

サイズが合ったものを選ぶ

モーニングコートはサイズがきちんと合っていてこそ、初めて格好良く見えます。そのため、サイズがご自身の体型にピッタリと合っていることが大前提です。

理想はスーツ専門店で、モーニングコートなど正礼装のオーダー実績がある店舗です。そのようなスーツ店であれば、モーニングコートはもちろん、シャツやベスト、ポケットチーフなども一気に揃えることができます。

服のシルエットはトレンドを追い求め過ぎると数年後には着用できない恐れがあります。そのため、流行に左右されないものが良いでしょう。

おすすめは、体型に合わせた自然なラインと適度がゆとりを持つシルエットを選ぶこと。このようなモーニングコートは普遍的なデザインであり、時を経ても長く使うことができます。

モーニングコートをレンタルするのも一案

モーニングコートは現実的になかなか着用しないため、今後いつ着るか分からない場合はレンタルするのも一案です。

最近ではモーニングコートを着用する際に必要なアイテム一式をレンタルしているスーツ店もあります。

実際にレンタルをする際は、体のサイズはもちろん、モーニングコートが必要な時期や時間帯、使用する場所なども事前に伝えておくとスムーズです。

関連ページ：レンタルモーニング | 銀座英國屋

参考：モーニングをレンタルするショップの4つの比較ポイント

まとめ

この記事では日中の正礼装であるモーニングコートについて、想定される着用場面や着方、各アイテムの選び方について解説しました。

モーニングコートは、慶事だけでなく、弔事で正喪服として着用できる正礼装です。

ただし、慶事ではシルバーベストやシルバーネクタイを締めることが許容されているのに対して、弔事では黒ベストに黒ネクタイの一択など、着用マナーが異なる点には注意が必要となります。

監修者

小林英毅（銀座英國屋 代表取締役社長）

1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。 オーダースーツ銀座英國屋の３代目社長。 青山学院大学ファッションビジネス戦略論・一橋大学ＭＢＡ・明治大学ＭＢＡ・ネクストプレナー大学にてゲスト講師。 銀座英國屋は、創業80年。東京銀座・オークラ東京・大坂梅田・大阪あべのハルカス・京都に店舗展開。

ビジネスウェアを選ぶ際の「どなたから、信頼を得たいか？」という視点を軸に、オーダースーツについて、お役に立つ情報をお届けいたします。

オーダースーツ銀座英國屋（東京銀座・東京赤坂・大阪梅田・大阪阿倍野・京都）｜トップへ戻る