オーダースーツ 銀座英國屋コラム「リネン」は史上最古の繊維!高い安いの違いとは?|オーダースーツの基礎知識
「リネン」は史上最古の繊維!高い安いの違いとは?|オーダースーツの基礎知識
リネンは春夏向けのクラシックなオーダースーツに向いている生地です。植物系の衣料用天然素材の代表格として、コットン生地と双璧をなす素材ともいえるでしょう。
コットンよりもクラッシックで、清涼感も強いリネンですが、価格にも幅があります。高いリネンと安いリネンとは何がどう違うのでしょうか?
今回の記事では、混同されがちなリネンと麻の関係を整理し、その魅力を掘り下げ、高いものと安いものの違いを紐解きましょう。良し悪しを見分ける方法についても紹介します。
暑い時期のビジネスシーンに、一陣の涼風を吹かせるのはリネンのスーツです。春夏にウール系以外のスーツも新調したいと考えておられるみなさんは、ぜひ参考にしてください。
リネンは1万年の歴史を持つ史上最古の繊維
リネンとは、中央アジアやヨーロッパの寒冷地が原産の「亜麻(あま:フラックス)」と呼ばれる一年草のハーブから作られる生地です。
このリネンは、実に1万年という気の遠くなるような永い歴史を持つ「人類史上最古の繊維」とされています。詳しく見ていきましょう。
古代から貴人を飾る役目を担ってきたリネン
現代から遡ることおよそ1万年の紀元前8千年頃に、古代メソポタミア文明発祥の地であるチグリス・ユーフラテス川流域において、リネンのもとになる植物「亜麻(あま)」が繁殖していました。そのことは考古学で確認されています。
世界最古の文明の地において、メソポタミア人は繊維をとるための作物として亜麻を栽培し、装飾に活用していたというのが考古学者による分析です。
亜麻の活用の痕跡は、ナイル川流域に発展したエジプト文明にも見られます。ピラミッド内の壁画には、亜麻収穫の風景が描かれています。エジプトのファイユーム地方にて発見された世界最古の紡ぎ器(つむぎき)は、紀元前5千年頃には亜麻の繊維で糸を紡ぐ技術がすでに確立されていた証拠です。
古代エジプトの王侯のミイラは、リネンの布に包まれていました。神聖で気品ある繊維としての位置づけを持っていたことがわかります。
この繊維がヨーロッパに伝わり、産業革命を経て広く普及しました。
近年においてリネンの存在感を決定づけたのは、なんといってもジョルジオ・アルマーニのリネンジャケット、スーツの展開でしょう。
とりわけアルマーニが衣装を担当した映画「アメリカン・ジゴロ」で、主演のリチャード・ギアが着こなすリネンのジャケットの印象は鮮烈でした。
そんなリネンですが、一般的にリネン=麻というふうに理解されている傾向があります。完全なる間違いとはいえないのですが、厳密にはちょっと違います。
リネンと麻との関係性
麻のグループの中にリネンは含まれますが、リネンと名指しする場合はあくまで亜麻から作られた生地を指します。
「麻」の種類(リネン・ラミー・ヘンプ・ジュート)
麻と呼ばれる繊維の主な種類は、リネンとラミーのほかにも、ヘンプ、ジュートなどがあります。
これら4種類の特徴の違いを比較しましょう。
【リネン】
麻のグループの中でもっとも肌触りが柔らかく、毛羽立ちも少ない生地です。原産地はアイルランドやベルギー、ロシア、フランス、中国などで、育ちやすい地域は寒冷地です。
繊維の中が空洞なので空気を多く含み、湿気を発散させてからっとさせる性質があるので、特に夏用の洋服や着物に向いています。
リネンは中世の英国でよく使われていました。しかし近代に入る頃の産業革命を契機に綿花産業が発展し、リネンに代わってコットンが広く使われるようになります。
その理由としてはコットンは栽培がしやすく、価格も低いことにありました。コットンの普及に応じて、それまでのリネンの需要は激減しました。
この頃から普段用に気兼ねなく身に着けるコットン素材と、避暑地への旅行やパーティ、セレモニー用に贅沢品として身に着けるリネン素材に、用途が棲み分けされることになります。
日本では江戸時代に、亜麻の種を薬用に使っていた記録が残っており、繊維用に栽培されていたのは明治から昭和にかけてです。
ところが化学繊維の台頭で需要が激減し、1960年代に国内生産は減少します。ミレニアムを迎える2000年頃に、北海道の特産物にしようという気運が盛り上がり、再度国内生産が始まっています。
現在の日本の衣料品需要の中では、麻系の繊維の中ではリネンが現在最も多く使われています。光沢感がやや抑えめで、一般的な麻のイメージよりもしなやかさを持っています。
【ラミー】
「苧麻(ちょま)」とも呼ばれ繊維は太くて長く、毛羽立ちが目立ちます。「麻らしさ」でもあるハリやコシにおいて優れています。
いわゆる「シャリ感」を堪能できる素材です。色目が白くてシルクのような光沢があり、染め色の発色がよいのも特徴となります。強度はありますが、リネンよりもシワが出やすい素材です。
リネンと共通するのは、肌触りの良さに加えて使い込んでいった際の風合いの良さです。そのため、衣料品以外でも、用途としては手や肌に頻繁に触れるタオルやエプロンにも使用されます。
日本の家庭用品品質表示法で「麻」と表示できるのはリネンとラミーの2種類のみです。つまり、洋服で麻と品質表示されている場合は、リネンもしくはラミーのどちらかです。
【ヘンプ】
「大麻(たいま)」のことですが、日本国内産の大麻に麻薬成分はありません。しかし日本産は少なく、大部分はヨーロッパ産となります。
注連縄(しめなわ)などの日本文化の中に、古くから溶け込んでいる素材です。日本最古の印刷物とされる、法隆寺の「百万塔陀羅尼(ひゃくまんとう・だらに)」が印刷されている素材は大麻紙です。
織り上がった生地にネップ(繊維が絡み合って塊状になったもの)やスラブ(節むら)が多く見られる反面、独特の渋い風合いを持っています。
ほかには麻縄のロープなどにも利用されています。品質表示は指定外繊維(ヘンプ)です。
【ジュート】
「黄麻(こうま)」とも呼ばれ、その頑丈な性質から麻袋やカーペット基布に使われます。ゴワついた素材感が特徴です。
代表的なリネンの種類
リネンの中にも産地や混紡した素材、特性などからいくつかの種類に分かれています。その中でも代表的なものを紹介しましょう。
【フレンチリネン】
品質が高いとされるフランス産のフラックスから作られる、最上級のリネンがフレンチリネンです。ただし、フレンチリネン100%の生地だからといって、高級ウールやカシミヤ、シルクほど高額にはなりません。
また、フレンチリネンにほかの繊維を混紡した生地も多く見られます。麻の硬いイメージとは違い、フレンチリネンは柔らかさとシャリ感を併せ持つ、上品な光沢がある生地です。
【アイリッシュリネン】
アイルランド産のフラックスから作られたリネン生地で、フレンチリネンと双璧をなす高級かつ人気が高いリネンです。摩擦に強い特徴を持っています。衣料品以外にも高級バッグや高級エプロンの素材としてポピュラーです。
ほかにも、産地の名が冠せられたフランダースリネンやベルギーリネンなどもあります。ストレッチリネンはポリウレタンなどの素材を混ぜて、伸縮性を持たせた機能素付きのリネン生地です。
コットンリネンはその名の通りコットンと混紡した、双方の風合いを同時に味わえる素材といえるでしょう。ペーパーリネンはリネンと和紙を混紡した、ドライな素材感を持つユニークな生地です。
リネンの魅力と持ち味
古代から身を飾る装飾品をはじめ、生活のさまざまな場所で愛用されてきたリネンの魅力と持ち味を紹介します。
比較的丈夫である
コットンの2倍でウールの4倍もの強度を持っているリネンは、天然繊維の中でも丈夫なほうです。また、ウールなどは水に濡れると弱くなりますが、逆に強度が増すという性質がリネンにはあります。
ただし、洗濯によって大幅に収縮してしまうこともあるので、家庭洗濯においては洗濯表示の指示通りに行うことが必要です。
丈夫で水に強いリネンは、衣料用として春夏向けのスーツやジャケットに用いられるほか、シーツやカーテンのように長く使用する日常生活用の素材としても適しています。
汚れにくい
繊維と繊維をつなぐ役目を果たす成分ペクチンが含まれているリネンは、静電気が発生しにくく、塵やホコリが付着しにくいのも特徴です。
クリーニングを頻繁に出さなくとも、ほこりを払うだけでも効果はあります。しかもこの成分は抗菌性も持っています。
触り心地・吸水性・通気性に優れている
リネンはさらっとした肌触りが心地よく、使い込んでいけばいくほど、味わい深い風合いが出てくるという特徴があります。また、コットンの4倍ともいわれる、高い吸水率を持っています。
通気性にも優れているので、濡れても乾きやすい特徴を持つ素材です。熱伝導率が低い空気をたっぷり含むので、夏の気候でも涼感が充分感じられます。
また、冷房が効き過ぎている状態でも、空気が熱を保持するために冷え過ぎることを避けられます。リネンは温度調整の働きを持つ、優秀な生地です。
高いリネンと安いリネンの違い
リネンの中でも品質の良し悪しがあり、価格の高低にもつながるのは周知のとおりです。ここでは高いリネンと安いリネンの違いについて、詳しく見ていきましょう。
長繊維「ライン」と短繊維「トウ」
亜麻の原料の繊維には、ウールや綿と同様に長いものと短いものがあります。長い繊維はライン、短い繊維はトウという名称です。
ラインのほうが細番手の糸を紡げるので、繊細な柔らかい糸に仕上がります。このライン原料は1等亜麻とされ、トウが2等亜麻です。
リネンの熟成「レッティング」
亜麻はふわふわの綿花であるコットンや、おなじくふわふわの羊の毛であるウールと違って、草を熟成して茎や枝を柔らかくし、繊維を取り出して紡績にかけます。そのため、前処理が必要です。
手順として亜麻の草を刈り取ってまず行うのは、それを熟成させることです。草の芯にある木質と表面の硬い表皮を除去して、繊維を取り出す準備となるこの熟成工程は「レッティング」と呼ばれます。
具体的な方法は2種類です。草を束ねて土の上に置き並べて、自然の雨風や土壌の持っている力を利用して熟成させる方法は、デューレッティングと呼ばれます。水を張ったプールに草を浸して熟成させる方法は、ウォーターレッティングです。
前者の、土の上に置きならべて熟成させる「デューレッティング」では繊維が土壌の色を反映するので、「生成」に近いベージュになります。土中のバクテリアが硬い部分を分解するので、繊維質が取り出しやすくなります。この方法で熟成した原料が、一般的なリネンに用いられています。
後者の、水を張ったプールで熟成させる「ウォーターレッティング」は、土を使わないので草特有の、黄色味がかったベージュになります。ゴールドといってもよいくらいに綺麗なカラーが出るこの方法は、エジプトなどで用いられています。
レッティングを経た後は、草を叩いてほぐし、芯と表皮の硬い部分を除去する「スカッチング」と呼ばれる工程に進みます。この工程では全体を柔らかくほぐし、取り出すべき繊維にダメージを与えないように程よい強さで叩く技術が必要です。
この工程のみで紡績に進む場合は、粗いけれど丈夫な糸が作れます。
スカッチングの技術レベルは、原料のコンディションに影響を与えます。きめ細かい糸を紡ぐためにはこの後に、硬い部分を除去する「ハックリング」と呼ばれる工程が必要です。
ハックリングは、金属で出来たコーム(櫛状のもの)で草の束を梳くというシンプルな工程です。コームの刃の間隔や漉く動作の強弱をつける技術が、糸の品質に反映します。
ラインとトウ、熟成の方法で決まるリネンのグレード
整理すると、長繊維「ライン」と短繊維「トウ」という2つのクラスの原料がレッティング(熟成)を経てスカッチング(叩いて硬い部分を除去)から紡績に進むケースと、さらにハックリング(梳いて叩いて硬い部分を除去)の工程を施されて紡績に進むケースがあります。
つまり、リネン原料は大まかに以下の4つのグレードに分かれ、下にいくほどグレードは上がります。
・スカッチング(叩く)された短繊維トウ(2等亜麻)
・スカッチング後にハックリング(梳く)された短繊維トウ(2等亜麻)
・スカッチングされた長繊維ライン(1等亜麻)
・スカッチング後にハックリング(梳く)された長繊維ライン(1等亜麻)
リネンの質の見分け方
麻のグループでは高級とされるリネンにも、長繊維ラインと短繊維トウという2つのランクがあることに触れましたが、下位ランクのトウもリネン糸に普通に使われています。ラインとトウでは、糸になった状態での見た目では見分けがつきにくいところが難点です。
ここではリネンの質の見分け方について触れておきましょう。
リネンの糸の番手
最近でもちょっとしたリネンブームが起こり、リネンの国内流通量が約1.4倍程度に膨れ上がった時期が3年ほどありました。そして、麻糸を供給する紡績メーカーもそのニーズに応じて、大量の原料を仕入れる必要が生まれたのです。
リネン用に使われる麻糸の中で、よく使われる番手は40番と60番となります。もっとも需要が多いボリュームゾーンは40番です。
より細い60番は品質が格段によくなり、その分だけ価格も上がります。つまり高級品向けであるため、40番ほどの量は流通しません。
従来は衣料品向けのリネン生地に使われる40番手の糸は、基本的に繊維が細いライン原料で生産されていました。トウ原料の粗さでは紡ぐのが難しいからです。
紡績メーカーは良質な40番手の麻糸を作るために、ヨーロッパで栽培される上質のライン原料を確保したいのですが、その生産量は限られていました。とても、ブームからくる需要に対応し切れません。
そんな背景があってその時期は、もっとも需要の多い40番手の麻糸をいかに安定供給するかが紡績メーカーの課題となりました。
長繊維ライン原料が足りないのは仕方ないので、短繊維トウ原料を使用してでもなんとか需要に対応しようとする動きが生まれます。
紡績技術が向上して、トウ原料でも40番手が生産できるようになっていったのです。そしてかつてはなかったトウ原料による40番手の糸を使ったリネン生地が、ブームに応えて市場に行き渡りました。
リネンブームが招いた玉石混交
その後リネンブームも落ち着いて、需要が通常のバランスに戻ります。しかしその後も、40番の糸については、本来の長繊維ライン原料で作られたものと併せて、短繊維トウ原料で作られた糸もある程度のシェアを確立していました。
しかもその新40番は、ライン原料の糸と見分けが非常につきにくいという代物です。つまり、少し批判的な表現をすれば玉石混交ともいうべき、良質なライン原料の糸と粗いトウ原料の糸とが並列で入り混じる状態で落ち着きました。
残念ながらライン原料で作られた40番とトウ原料で作られた40番、それらを混ぜ合わせた40番のすべてが一見同じように見えます。
しかも、コットンの場合は超長綿やウールならスーパー表示などが表記されて目安になることが多いですが、リネンでそういう表記はあまり見られません。
見分けるために、価格は必ずしも基準としてはなりません。トウ原料の生地や製品なら高く売れば売れるほど利益が確保されるため、リーズナブルな価格設定になっているとは限らないのです。
上質な原料かどうかは、自身で触って確かめるしかありません。前提として本来のライン原料による40番で作られた生地の手触りを分かっていることが必要です。
それを知る人は、未知のリネンを指でつまみ、擦り合わせるなどして感触を確かめる中で、なめらかさを感じるか粗さを感じるかによって判断するしかありません。
なお、60番くらいの細番手になれば、もはやトウ原料でいくら頑張っても紡ぐのは不可能です。ライン原料だけしか使用できません。
なおかつスカッチング(叩く)止まりの原料でも無理なので、60番ならライン原料でなおかつハックリング(梳く)まで施されていることが保証されています。
オーダースーツ生地は、上質リネンが使われている
ちなみに、オーダースーツ生地でよく使われているアイリッシュリネンやフレンチリネンなどであれば、基本的にライン原料でハックリングも施された上質リネンと考えてよいでしょう。
さいごに
1万年という長い歴史を持っているリネン生地は、従来の「硬い」という麻のイメージとは違って、柔らかさや光沢をもった品格があります。春夏のオーダージャケットやスーツにぜひお試しいただきたい生地です。
アイリッシュリネンやフレンチリネンなどの良質なリネン生地を用途に合わせてチョイスしましょう。使い込んでさらに体に馴染むリネンの醍醐味を、ぜひ一度体感してください。
監修者
小林英毅(銀座英國屋 代表取締役社長)
1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。 オーダースーツ銀座英國屋の3代目社長。 青山学院大学ファッションビジネス戦略論・一橋大学MBA・明治大学MBA・ネクストプレナー大学にてゲスト講師。 銀座英國屋は、創業80年。東京銀座・オークラ東京・大坂梅田・大阪あべのハルカス・京都に店舗展開。
ビジネスウェアを選ぶ際の「どなたから、信頼を得たいか?」という視点を軸に、オーダースーツについて、お役に立つ情報をお届けいたします。
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