オーダースーツ 銀座英國屋コラム【保存版】オーダースーツの生地を長持ちさせるお手入れ方法とクリーニングの注意点
【保存版】オーダースーツの生地を長持ちさせるお手入れ方法とクリーニングの注意点
オーダースーツのお手入れは、「クリーニングには出すけれど、それ以上の手入れは特にしたことがない」という方も多いのではないでしょうか。
実は、クリーニングは汚れを落としますが、時としてオーダースーツにダメージを与えてしまうこともあります。スーツを長持ちさせるためには、クリーニング以上に、日頃の正しいお手入れが重要なのです。
今回の記事では、みなさんのオーダースーツを長く愛用するための、正しいお手入れの仕方とクリーニングの注意点を解説します。この記事を読んでいただければ、お手持ちのオーダースーツを長い間快適に着用できることになるでしょう。
目次
1日着用した後のスーツの状態とは
1日着用したオーダースーツには、たくさんの「埃」「塵」「花粉」が付着しています。そして多少なりともシワがつき、ひざが出たり、型崩れが起きています。
スーツのクオリティによって個体差はあるにしても、着用前と比較すればそれなりにコンディションが悪くなっていて当然です。
着用後のダメージをリセットするのがお手入れ
きちんとお手入れをしないまま着用を繰り返していると、オーダースーツはどんどん劣化していきます。
せっかく仕立てたオーダースーツを長い間良い状態に保って、快適に着用するためには、適切なお手入れでダメージをリセットすることが最も大切です。
「クリーニングが第一」という考え方は要注意
クリーニングに出すことがお手入れだと考え、クリーニングをマメに出すことでオーダースーツを長持ちさせようと考える方もいらっしゃいますが、それは注意が必要です。
着用後のお手入れをしないままドライクリーニングに出しても、思うようにリフレッシュしません。それをシーズン中に何度も繰り返せば、むしろオーダースーツの劣化を早めてしまうことに繋がります。
なぜなら、クリーニングに出すことでもスーツの表面は一旦きれいになりますが、ドライクリーニングは有機溶剤を使うので、天然素材である生地に負担が掛かるのです。
しかも、生地の表面に付着している「埃」「塵」「花粉」などの汚れは洗い落とされても、繊維の奥に深く入り込んだものはそのまま残り、蓄積します。
また、水溶性のシミや汚れが落ちにくいのもドライクリーニングの特徴です。
では、オーダースーツの適切なお手入れとは、どうすればよいのでしょうか?
オーダースーツのお手入れは優先順位が高いほうから「ブラッシング」「アイロン」「クリーニング」です。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
お手入れの基本はブラッシング
スーツやジャケット、コートなどの重衣料のお手入れの基本は、何を差し置いてもブラッシングに尽きます。繊維に付着したさまざまな汚れを除去するためには、ブラッシングに優る方法はありません。
着用した日の最後にきちんと念入りなブラッシングを行うことは、「埃」「塵」「花粉」などの表面に付着した汚れはもちろん、繊維の奥に入り込んだ汚れも掻き出す効果があります。
そうしたさまざまな汚れが繊維に残ってしまうと、生地の褪色の原因や、カビや衣類の虫、雑菌などが発生するきっかけとなったりします。そうならないように、着用するたびにブラッシングにて汚れを掻き出しておきましょう。
またブラッシングには、着用時のダメージで潰れていた繊維をフワッと起き上がらせて、本来の質感や光沢を蘇らせる効果もあります。毛足が長い生地なら細かい毛先の絡まりもほぐし、毛玉の防止にもつながるでしょう。
正しいブラッシングの仕方
ブラッシングは、利き手で洋服ブラシ、もう一方の手で上着の襟の内側をつかんで掲げる体勢で行いましょう。ズボンの場合は腰のウェスマン(ベルトの位置)の内側で持ちます。
まず洋服ブラシで生地全体をまんべんなく叩き、ホコリを浮かせます。そして表面を擦るのではなく、まず生地に対して垂直に洋服ブラシの毛を差し込むような感じで押し付け、そして掻き出すよう掛けていきます。
上着の襟を立てて、その裏側も忘れずにブラッシングしてください。ポケットの内側などの外から見えない部分もブラッシングしましょう。
オーダースーツを型崩れから守るために
ブラッシングを終えたスーツの上着は、型崩れから守るために充分な大きさ(肩の幅や太さ)があるハンガーに掛けましょう。
ハンガーの形状は平坦なものではなく、肩が当たる部分にボリュームがあるものが望ましいです。クリーニング上がりについてくるような、針金ハンガーのような薄いハンガーは、型崩れの原因となるので注意してください。
できるだけスーツ専用のハンガーを使用しましょう。材質は木製が湿気を吸うので最適ですが、プラスチックのものでも大きな問題はありません。そして1日か2日は着用せずに休ませます。
なお、ハンガーに掛ける前に、ポケットの中身はすべて出しましょう。物を入れた状態のまま吊るすと、型崩れの原因となります。
エチケット洋服ブラシやコロコロについて
エチケット洋服ブラシやコロコロは、スーツの表面に付着した汚れを手軽に取ることができるので、来客前で時間がない時や外出先で重宝する便利なアイテムです。
ただ、あくまでも表面的な見た目をきれいにする効果に留まり、繊維の奥に深く入り込んだ汚れは掻き出せません。同様に、繊維を起き上がらせる効果も望めません。お手入れとしてのブラッシングの代わりにはならないことを、よく理解しておきましょう。
頑固なシワにはアイロンワークで対応
ちょっとしたシワは、ハンガーに吊るしておくことで、自重によるプレス効果により復元します。
シワがしっかりとついた場合は、ハンガー掛けした状態で霧吹きをするか、スチームアイロンやスチーマーで蒸気を当てた上で、陰干しをすると復元しやすいです。もしくは入浴後の蒸気が残る浴室に、数時間でも吊るしておきましょう。
ズボンも、念入りなブラッシングを終えた後に、ズボン用のハンガーに吊ります。シワが強く残っている場合はアイロンを掛けてから吊りましょう。
アイロン掛けの効果
ウールの最大の長所といえる性質により、湿らせて温めるとウール本来のフワッとした良好な状態が復元されます。そのため頑固なシワが残っていても、時折適切な方法でアイロン掛けすることによって復元が可能です。熱による殺菌効果も期待できます。
また、時にシワが気にならなくとも、時折アイロンをかけることにより、ウールの長所が発揮されてオーダースーツがリフレッシュされるでしょう。
頻繁なクリーニングよりも、まめなブラッシングと折に触れてのアイロンによってクリーニングに出す回数を減らすほうが、スーツの寿命にとっては良いのです。
正しいアイロン掛けの方法
アイロンの正しい掛け方をご紹介しましょう。
最初は、押し付けずにスチームモードで全体に蒸気を当てて、生地に湿気を与えます。
次にドライモードで「中低音」にセットし、アイロン台に寝かせて、必ず「当て布」を間に敷き、湿り気を乾かすようにアイロンを当てます。まんべんなくアイロンを当てて全体が乾けば、シワも消えて生地がリフレッシュします。
上着の肩周りなどはアイロン台に寝かしてもアイロンを当てにくいので、内側から手を入れて(火傷防止で内側も布を充分に当てて)持ち上げ、表面にも当て布をかぶせ、カーブに沿って軽く当てます。
センタークリース(ズボンの折り目)をつける以外は、それほど力を入れて強く押し付ける必要はありません。
クリーニングの注意点
クリーニングに関しては、出さないで済むのでしたら、それに越したことはありません。油汚れや食べこぼし、インクなどがついた場合はやむを得ませんが、そうでもない限りは、本当に出す必要があるかを良く考えましょう。
きちんとブラッシングしている方たちの中には、ほとんどクリーニングに出さない方も珍しくありません。考え方としては和服の着物と同じで、直接肌に触れないので普段の手入れをきちんとしていれば洗う必要はないということです。
どうしても出したい場合は、ドライクリーニングではなく「水洗い」で「手仕上げ」を指定しましょう。価格は高くなりますが、生地にダメージを与えることも少なく、綺麗に仕上がります。
トラブル別の対処法
気をつけていても汚してしまうようなトラブルもあります。ここで、主なスーツのトラブル別の対処法を紹介しましょう。
●シミがついた場合
●ニオイがついた場合
●テカリが出た場合
●泥ハネや土汚れの場合
シミがついた場合
取るに足らないシミであれば、市販の染み抜きなどでクリアできる場合もあります。しかし頑固なシミは自分で取ろうとして却って状態を悪化させるケースもあります。
難しいと感じたら無理に染み抜きをせず、応急処置だけしてクリーニング店に染み抜きを依頼しましょう。
応急処置が必要なのは、シミが繊維に深く定着するとクリーニング店でも落とせなくなる場合があるからです。
水溶性のシミ、すなわち醤油やコーヒー、ジュースなどのシミは、水を含ませた柔らかい布で軽く叩いて状態を緩和しておきましょう。
油溶性のシミ、すなわちインクやケチャップ、マヨネーズ、口紅などのシミは中性洗剤を少しだけ含ませた柔らかい布で軽く叩き、状態を緩和しておきます。
いずれの場合も強く擦ると汚れを繊維にすり込むことになり、状態が悪化するので気をつけてください。
ニオイがついた場合
スーツにつくニオイの多くは、蒸気を当てて飛ばすことができます。スチームアイロンやスチーマーで蒸気を当てて陰干しするか、使用後の蒸気が残る浴室に数時間吊るしておいてから陰干ししましょう。
衣類用の消臭スプレーも効果はありますが、蒸気を当てる方法なら生地の鮮度も戻るので一石二鳥です。
テカリが出た場合
スーツの表面にテカリが出てしまった場合は、アイロンとブラッシングで解決できることが多いです。
そもそもテカリは、生地の繊維が潰れて表面の凹凸がなくなっている状態で出るものなので、よほど使い込んで摩耗した生地でなければ、繊維の形状を復元することで消せます。
方法としてはまずアイロンかスチーマーで、押し付けずにスチームを当てて生地をふかします。次に丁寧にブラッシングして繊維をならし、整えます。最後に当て布をしてドライモードで軽く当てて生地を乾かします。
乾いたら、再度ブラッシングを行います。それで大抵はテカリが治まってくるでしょう。治まらない場合は、すでに生地が相当ダメージを受けていると考えられます。
泥ハネや土汚れの場合
泥がハネたり土汚れが着いた場合は、慌てて取ろうとしないほうが良いです。それをすると、繊維に汚れを深く染み込ませることになります。触らずに乾燥させる方が賢明です。
ドライヤーが使える状態なら、ドライヤーの温風を当てて乾かしましょう。泥や土の汚れは完全に乾くと取りやすくなります。
続いて、乾いたことを見極めて、手で叩いて落とします。表面の汚れが落ちたら、ブラッシングです。例によって洋服ブラシの毛を差し込むように押し付けて掻き出しましょう。
その方法で概ね解決するはずですが、すでに染み込んでいる汚れがあれば水(できればお湯)を使ってその部分を軽く揉み洗いすれば消えるでしょう。
洋服ブラシの選び方
オーダースーツのお手入れで重要な洋服ブラシの選び方を解説します。
洋服ブラシの材質
洋服ブラシの材質には化繊の人工毛タイプと天然毛のタイプがあり、天然毛には豚毛と馬毛があります。
カジュアルアイテムであれば人工毛の洋服ブラシで問題ありません。しかしスーツ、それもオーダースーツであれば天然毛の洋服ブラシを使いましょう。
「豚毛」と「馬毛」では毛の硬さが違います。
豚毛はコシがある硬めの毛質です。豚毛の中でも白豚毛と黒豚毛があり、黒豚毛はより硬く、白豚毛はしなやかさがあります。
生地のグレードと洋服ブラシの関係
黒豚毛は通常のウールのウーステッドのスーツへの使用が向いています。基本的に丈夫なウールですが、高級ウールのスーパー120’s以上のような繊細な素材の場合は、しなやかな白豚毛がおすすめです。
馬毛は白豚毛よりもさらにしなやかで、弾力性がある毛質です。スーパー150’sなどの超高級ウール素材やカシミヤなどのスーツおよび手足が長いコートなど、扱いに気をつけたい高級素材への使用に向いています。
また、馬毛の洋服ブラシは比較的高価ですが、通常のスーツ向けとしても良いので万能タイプともいえるでしょう。
スーツ保管の注意点
スーツの着用シーズンが終わって半年間収納保管する場合には、収納中にカビや虫食いのトラブルを発生させないように、入念にブラッシングを施し、殺菌のつもりで全体をアイロン掛けしましょう。
そして防虫カバーに入れて収納するのが最も安心です。スーツを購入した際についてくる不織布のカバーは通気性が悪いため、収納用には不適切です。また、クリーニング時に付いてくるビニールは湿気がこもってカビやシミを生む原因となりかねません。
さいごに
大切なオーダースーツを長く愛用するために、普段の手入れはまめに行いたいものです。基本的なブラッシングを怠らなければ、頻繁にクリーニングを出して劣化を早めることを避けられます。
ブラッシングと適切なアイロン掛け、ハンガー掛けによってスーツを型崩れや褪色から守りましょう。オーダースーツを愛用しているみなさんは、ここで紹介した情報を参考に適切なお手入れをして、お気に入りのオーダースーツを長く愛用してください。
監修者
小林英毅(銀座英國屋 代表取締役社長)
1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。 オーダースーツ銀座英國屋の3代目社長。 青山学院大学ファッションビジネス戦略論・一橋大学MBA・明治大学MBA・ネクストプレナー大学にてゲスト講師。 銀座英國屋は、創業80年。東京銀座・オークラ東京・大坂梅田・大阪あべのハルカス・京都に店舗展開。
ビジネスウェアを選ぶ際の「どなたから、信頼を得たいか?」という視点を軸に、オーダースーツについて、お役に立つ情報をお届けいたします。
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