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スーツのポケットはどう使う?種類や役割マナーの基本を解説
スーツのポケットはどう使う?種類や役割マナーの基本を解説

スーツにはいくつものポケットが付いています。物を入れることができ、便利なこともあり、日常的に活用している人もいらっしゃるでしょう。
実はこのポケットには場所によってそれぞれの役割や意味が異なり、使い方にもマナーがあります。ですから、その役割や使い方や使い方を知っておけば、場に応じた振る舞い、使い方をすることができます。
そこでこの記事では、スーツにおけるポケットの役割や種類、マナーについて分かりやすく解説します。
スーツにおけるポケットの役割

スーツのポケットは、現代では主に装飾的な役割を持ち、実用性を重視して設計されているわけではありません。
もともとスーツの原型は軍服にあり、19世紀にはポケットに財布や筆記具、懐中時計などを入れて使用していました。当時はバッグを持ち歩く習慣が一般的ではなかったため、衣服に多くの収納機能を持たせる必要があったのです。
しかし、現代のスーツにおいてポケットの役割は大きく変化しています。現在では、その多くがデザインバランスを整える装飾的な要素として設けられており、実際に物を入れて使うことはあまり想定されていません。ポケットは“あるけれど使わない”のが基本で、財布や名刺入れ、スマートフォン、ハンカチ、ボールペンなどを詰め込むのはなるべく避けた方がよいでしょう。
スーツに付いているポケットの種類
スーツに付けられているポケットの種類や役割を知っておくと、よりスマートな着こなしにつながります。ここでは、ポケットの種類や特徴について詳しく見ていきましょう。
胸ポケット

胸ポケットはジャケット左胸に付いています。装飾的な役割を持ち、入れて良いのは基本的にポケットチーフだけです。
ときおり、ポールペンなどを数本差している方がいらっしゃいます。胸ポケットにはマチがないので、そこだけ膨らんでしまい見た目が良くありません。型崩れの原因になるだけでなく、頻繁にペンを出し入れするとペンのクリップで胸ポケットの生地を傷めてしまうので、ペンを差すのは控えましょう。
なお、胸ポケットは縁取りの形状によって幾つかの種類があります。
箱ポケット

箱ポケットはジャケットの胸位置に切り込みを入れてポケットを作り、切り込み幅に合わせた縁取りを付けたものです。縁取り部分が長方形で、長方形の箱のようであることから「箱ポケット(ウェルトポケット)」と呼ばれています。
世の中に流通している一般的なスーツの多くがこの仕様であり、礼服などにもよく用いられています。
バルカポケット

バルカポケットは、縁取り部分にカーブがかかった仕様のものです。
体の中心から外側に向かうにつれてカーブが上がっていく作りをしています。バルカとはイタリア語「barca」で、日本語で「小舟」という意味です。カーブがかかったポケットの縁取りが船の側面のように見えるのが名前の由来です。
バルカポケットは、ジャケットを着たときに胸板にカーブが沿うように美しい曲線を描きます。胸元を立体的かつ綺麗に見せてくれるのがバルカポケットの魅力です。
腰ポケット
ジャケットの腰あたりの左右にあるポケットが、腰ポケットです。ポケット自体にマチがなく、現代では装飾的な意味合いが強くなります。
腰ポケットは形状によりいくつかに細分化されます。
フラップポケット

ポケット上部にフラップ(蓋)がついているポケットです。スーツに見られるもっともポピュラーな仕様です。本来スーツは屋内での着用が前提とされていましたが、屋外での使用が増えたことで、ポケットに異物が入るのを防ぐ目的でフラップ(蓋)が付けられるようになりました。
フラップ部分はポケットの中に仕舞うこともでき、収納すると外側からは見えなくなります。
スラントポケット

フラップ(蓋)付きポケットのうち、フラップとポケット本体が傾斜しているものをスラントポケットと言います。スラント(slant)は英語で、「坂」「傾斜」という意味です。
ジャケット正面のボタン側が高く、両脇に向かって下がる作りをしています。正面から見た時に左右のポケットのフラップ部分がカタカナの「ハ」の字に見えるのが特徴です。
スラントポケットは英国のスーツに見られるディテールであり、この斜めのラインがウエストや腰のラインを強調し、全体のシルエットを引き締めて見せることで、スタイリッシュな印象を演出できます。
チェンジポケット

主に右側(正面向かって左側)の腰ポケットの上に作られたやや狭い幅のフラップ付きポケットをチェンジポケットと言います。チェンジ(change)は英語で「つり銭」「小銭」のことで、文字通りこのポケットに小銭や受け取った釣り銭などを入れていました。
現代でも、小銭やチケットなどを入れて使うことができますが、ジャラジャラと摩擦音がすることもあり、スマートではありません。現代では装飾的な意味合いが強く、スーツのジャケットにアクセントを加えることができます。
パッチポケット

パッチポケットは、ジャケット両側の腰位置に上から、共生地でポケットを貼り付けたものです。パッチ(patch)は「継ぎ当てする」という意味を持ちます。
パッチポケットは、もともとワークウェアに使われていたデザインで、フラップポケットに比べるとカジュアルな印象が強いのが特徴です。そのため、ビジネススーツに採用されることはほとんどなく、単品のカジュアルジャケットに多く見られます。
玉縁ポケット

玉縁ポケットは、フラップのないデザインで、切り込み部分がそのまま見える仕様です。水平に伸びたラインの上下に縁取りが施されている点が特徴で、これを「玉縁(たまぶち)」と呼びます。
仕様は二種類あり、上下両方の縁が縫われているものは「両玉縁」、片側のみの場合は「片玉縁」となります。
腰まわりに使われるポケットの中では、もっともフォーマルな仕様です。なお、フラップポケットの蓋を内側に仕舞うことで、見た目は玉縁になります。
内ポケット
ジャケットの内側に付いているポケットのことです。付いている部位によって名称と目的が異なります。外側に付いている胸ポケットは物を入れると膨らんで不恰好になりやすいところ、内ポケットは比較的目立ちにくいので、薄い物であれば入れるという方もいらっしゃいます。
とはいえ、あまり物を入れすぎるのは型崩れの原因になるので、必要最低限にとどめた方が無難でしょう。内ポケットの主な種類は以下4つです。
インサイドポケット

ジャケットの胸位置にある内ポケットをインサイドポケットといいます。左右の両胸にそれぞれあるのが普通です。薄いカードホルダーや薄手の名刺入れなどであればインサイドポケットに入れてもそれほど響きません。厚いものを入れるとそこだけが膨らむので避けた方が良いでしょう。
ペンポケット

インサイドポケットのすぐ下にペンを入れるために作られたポケットです。4〜5cm巾の切り込みがあります。胸ポケットにペンを入れると、スーツにペンの跡が残ったり、生地を傷めたりする可能性があるため、筆記用具をポケットに入れたい方はこちらを活用すると良いでしょう。
チケットポケット

チケットポケットは高めの胸位置にある内ポケットで、主にチケットなどを入れる際に使います。
スーツ表生地と裏地の境目あたりに作られていて、縦方向に切り込みが入っており、目立たずにスマートな作りをしています。ポケット自体がそれほど深くないので、切符や定期券などを入れても曲がりにくいのも特徴です。
名刺ポケット

名刺ポケットはジャケットの内側かつ左下にあることが多いポケットで、元々はシガレットケースやタバコを収納するために作られましたが、近年では喫煙者の減少に伴い、タバコ以外の小物入れとしても利用され、便利な収納フリースペースとして重宝されています。
口幅は8cm程度で、厚みのある物を入れてもジャケットのシルエットを崩しにくいのが特徴です。
シーンに合わせた腰ポケットの選び方
スーツのポケットのうち、もっとも種類が多いのが腰ポケットです。腰ポケットの作りはスーツの見え方やフォーマル度合いに影響するので、目的に応じて選ぶのがオススメです。ここでは、スーツやジャケットを着る場面ごとにどのポケットの仕様を選べば良いか解説します。
フォーマルな場ではノーフラップポケット

フォーマルな場では、ノーフラップポケットが最適です。フラップのない装飾を控えたシンプルなつくりのすっきりとしたデザインは、スーツの持つ美しさを邪魔せず、洗練された雰囲気や上品さを際立たせます。結婚式や公式なレセプションなど、きちんとした装いが求められるフォーマルな場面にぴったりです。
お持ちのスーツがフラップ付きである場合は、フラップをポケットの内側に仕舞うことで、より改まった印象に近づけられます。見た目は完全なノーフラップとは異なりますが、TPOに合わせたちょっとした工夫として取り入れてみてはいかがでしょうか。
ビジネススーツならフラップポケット

ビジネススーツを着る場面であれば、腰ポケットがフラップポケット仕様のものを選びます。フラップが付いているポケットはビジネススーツの定番であり、既製スーツ、オーダースーツともにもっともポピュラーなディテールです。
最近はビジネスシーンのカジュアル化が進んでいることもあり、スーツによっては最初からパッチポケットの仕様になっているものもあります。オフィスカジュアルのみを想定した使い方であれば許容されるかもしれませんが、取引先など外部の人と関わるような場合はやはりフラップポケットの方が安心です。
カジュアルな場面ならパッチポケット

スーツではなく単品のカジュアルジャケットを使った装いであればパッチポケット仕様で問題ありません。
最近ではセットアップスーツのジャケットなどでパッチポケット仕様のものを見ることがあります。オフの日にそのようなセットアップスーツを着る場合や、お仕事でも服装の規定が軽い職場などではパッチポケット仕様のジャケットも一案です。
もっとも、上の項目で挙げたように、社外の人や目上の方と会う場合はフラップ付きの腰ポケットを選ぶのが無難です。
スーツのポケットにまつわるマナー
スーツにはいくつものポケットがあります。ただしこれらのポケットはたくさん付いているからといって自由に使って良いわけではありません。ここでは、スーツのポケットについて使い方のマナーをご紹介します。マナーを知っておけば、スーツをより格好良く着こなすことができます。
フラップの扱いにも気を配る

フラップの扱いに気を配るようにしましょう。ポケットのフラップ(蓋)はもともとホコリや雨粒がポケット内に入り込まないようにする目的で取り付けられた経緯があります。ホコリや雨粒が入り込むリスクは主に屋外ですので、フラップ部分は屋外では外側に出しておき、室内ではポケット内に仕舞うというのが本来のルールです。
現代では一日の中で屋外と室内を何度も移動することが普通のことでしょう。そのような場面でその都度フラップを出したり入れたりするのはあまり現実的でないかもしれません。しかし、このルールを知っておけば、冠婚葬祭をはじめ、フォーマル度合いが高い場面ではフラップポケットのマナー通りにするということもできます。
注意したいのが、フラップの片方だけ出ていたり、またはフラップの一部だけが中途半端にチラリと出ていたりすることです。見た目も良くありません。左右のフラップの両方を、出すか仕舞うのかのどちらかに統一しましょう。また、特に腰ポケットに物を出し入れするときに起こりやすいので気をつけましょう。
ポケットに物を詰め込まない

ポケットに物を詰め込むのは控えましょう。スーツの内ポケットは実用性を考慮して作られていますが、本来はシルエットを美しく保つために最小限の使用に留めるのが理想です。ポケットに物を詰め込むと、そこだけが膨らんでしまい、見た目の印象を損ねるうえ、型崩れの原因にもなります。
たとえば、腰ポケットに折りたたみ財布やスマートフォンを入れると、その部分が不自然にふくらみ、重みでポケットが垂れ下がって左右のバランスが崩れてしまうこともあります。
スーツにはいくつもポケットが付いているものの、それらはあくまでデザインの一部です。物を入れてもよいとされるのは基本的にジャケットの胸ポケットのみ。ここに収めるのはポケットチーフ程度にとどめましょう。必要な荷物はバッグに収め、ポケットに物を入れる場合も一時的な利用にとどめるのが望ましいです。
まとめ
この記事ではスーツのポケットについて解説しました。スーツのポケットは、単なる収納ではなく、装いの一部としてデザインされています。とくに外側のポケットは見た目のバランスを整えるためのものであり、むやみに物を入れることは想定されていません。
また、腰ポケットのフラップを場面に応じて出し入れするなど、知っているだけで印象が変わるマナーもあります。スーツは「着る」だけではなく、「どう着こなすか」で印象が決まるもの。この記事が、そうした細部に目を向けるきっかけとなれば幸いです。
監修者

小林英毅(銀座英國屋 代表取締役社長)
1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。 オーダースーツ銀座英國屋の3代目社長。 青山学院大学ファッションビジネス戦略論・一橋大学MBA・明治大学MBA・ネクストプレナー大学にてゲスト講師。 銀座英國屋は、創業80年。東京銀座・オークラ東京・大坂梅田・大阪あべのハルカス・京都に店舗展開。
ビジネスウェアを選ぶ際の「どなたから、信頼を得たいか?」という視点を軸に、オーダースーツについて、お役に立つ情報をお届けいたします。
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