オーダースーツ 銀座英國屋コラムスーツの裏地とは何のためにあるの?種類と特徴、目的によるオーダー時の選び方を解説
スーツの裏地とは何のためにあるの?種類と特徴、目的によるオーダー時の選び方を解説
スーツのジャケットやズボンの裏側を保護する「裏地」は、裏方のように目立たずにその役目を果たしています。裏地が付いている時はその効用や存在意義がわからなくとも、いざ裏地を無しにするといろいろと困った問題が出てくる、そんな存在です。
今回の記事では、そんな裏地で使われる素材の種類を整理し、さらに裏地を付ける目的やスーツのタイプとの相性やおすすめ裏地を解説します。また、スーツをオーダーする際の裏地選びに役立つ情報をご紹介しますので、ぜひご覧ください。
裏地とは?
裏地とは、文字通り「洋服の裏側に使われる生地」のことで、スーツやコート、ズボン、スカートやワンピースなど、多くのアイテムで使われるものです。
また洋服にかぎらず、バッグや手袋などのファッションアイテムにも使用されています。もちろんすべてのアイテムに裏地が付けられるわけではなく、また同じアイテムでも、必しも付けられるものではありません。
(スーツは基本的には裏地が付けられますが、一枚仕立てなどの裏地が付かない仕立て方もあります。)
裏地の主な種類
裏地に使われる素材の種類は、大別すると以下のとおりです。
●合成繊維
●再生繊維
●天然繊維
それぞれの特徴と、その中での種類を個別に見ていきましょう。
合成繊維
合成繊維とは、石油から得られた物質を元にし、「化学反応によって合成した高分子化合物」から作られる人工繊維です。さまざまな機能を持たせたることができるという特徴があります。
合成繊維の中で、裏地に使われる代表的なものはポリエステルやナイロンです。
裏地は肌に近い内側にあり、表地よりも擦れる度合いが大きいため、日々の仕事でハードに使う場合に耐久性重視で選ぶなら、丈夫なポリエステルやナイロンなどが向いています。
再生繊維
再生繊維とは、再利用された原料で作られた素材です。再生繊維で有名なものには、レーヨンとキュプラの2つあります。
レーヨンは、木材パルプを再生して作る繊維。キュプラは、綿花を収穫すると残る短い繊維を原料に作る繊維です。
合成繊維ほどの丈夫さはありませんが、ビジュアル的にはシルクのような光沢感、ぬめり感があります。そのため、普段使いよりも重要な場面で着る場合に適しているでしょう。耐久性よりも高級感で選ぶなら、レーヨンやキュプラなどが向いているといえます。
天然繊維
天然繊維は、植物の花や果実、動物の毛、昆虫の繭など繊維を原料として作る素材です。
シルク
いわゆる「絹」で、蚕の繭を精製して作ります。非常に繊維が細くて高級感がある反面、デリケートであるため紡績には高い技術が求められます。シルクの裏地は光沢も美しく、ラグジュアリーな洋服に使われます。
コットン
綿花を精製して作る素材で、丈夫で安価なのがコットンです。現在ではコットン100%ではなく、ポリエステルやナイロンなどを混紡したものが裏地に使われることもあります。
また、安価な合成繊維が誕生する前の時代は、スーツやジャケットの裏地に使われることが多かった素材でもあり、それを逆手にとって、クラシック感やヴィンテージ風味を出したい時に、コットン100%の裏地をあえて使う場合もあります。
ウール
羊の毛から作る素材で、丈夫で保温性が高く、安定した繊維です。スーツよりも、オーバーコートなどの防寒性を重視する衣料品に使われることが多いです。
麻
麻系の植物の繊維から作る素材です。ざらっとした肌触りで、すべりがよくない(摩擦係数が高い)ので、本来は裏地には向きません。しかし独特の風合いがあり、意匠性を重視する場合に用いられます。
裏地の目的
裏地はもちろんさまざまな目的があって使用され、その目的に応じてふさわしい素材を職人や企画者がチョイスしています。また、オーダーメイドではスタッフの助言を聞きながら自分で選ぶことが多いものです。
ここで、代表的な裏地の目的を見ていきましょう。
表地の補強
表地を保護および補強する目的で、裏地を付けます。昔の分厚いツイードのスーツなら、そもそも耐久性が強い裏地で補強する必要性は少なかったでしょう。
しかし、近年のスーツはツイードより薄手のウーステッドが主流の上、極細繊維のデリケートな生地も増えているので、裏地は欠かせない存在です。
また、表地が薄手の場合は、シルエット感を補強するという効果も期待できます。
動きやすさや着脱の容易性
衣服を身につけている際に摩擦が起きがちなのは、ジャケットとズボンともに、肌に近くて体に触れている裏側(内側)です。そこにすべりが良い裏地を使っておけば、普段も動きやすく、着脱する際も容易となります。
また、冬場などは静電気が発生しやすいものですが、裏地で摩擦係数を下げることにより緩和することができます。ただし擦れるため耐久性がある裏地が選ばれます。
保温性の向上
普通の表地1枚だけでは、秋冬の季節に屋外では寒く感じるでしょう。裏地がついていれば保温性が高まり、また風を通しにくくなるので、寒さをしのぐために有効です。
反対に、夏場のジャケットにおいては通気性を妨げることになるので、「背抜き」とよばれるジャケットの最上部と脇だけに裏地を付けて背中の部分は抜く仕様が一般的です。
あるいは脇の裏地も減らした「半裏」や、いっそ裏地を使わない「一枚仕立て」などの仕様もあります。また、メッシュ素材の風を通しやすい裏地を用いるケースもあります。
起毛したコットンやウール、アクリルなどの裏地を、保温性の高さから選ぶこともあります。起毛素材は表面に空気を含む性質があり、空気は熱伝導率が低い物質なので、外気の冷たさを遮断する効果があります。いわば二重サッシや飛行機の二層構造の窓と原理は同じです。
透け防止効果
夏向けの極薄スーツ生地では、シャツの色が透けて見える場合があります。そういう生地であれば背抜き仕様ではなく、極薄素材やメッシュ素材の裏地で秋冬と同様の「総裏」にすることが多くなります。
また、通常スボンの裏地は膝から上だけの前側部分に付けますが、極薄スーツ生地では、膝から上以外の、裏側や膝下部分の肌の色が透けて見えるので、極薄素材やメッシュ素材の裏地で全体をカバーするズボンの「総裏」仕様を用いることがあります。
ファッションの一部
裏地はあまり人に見せることはありませんが、胸ポケットから財布やパスポートを出す時にチラッと見えたり、あるいは、背中のベントがひるがえって裏地がのぞくこともあります。
そういう時に見えることを意識して、裏地もファッションの一部として綺麗な色や洒落た柄の裏地を選ぶのも楽しさの1つです。
スーツのタイプと裏地の相性によるオーダー時の選び方
最後に、オーダースーツの裏地を選ぶ際の参考に、仕立てようとしているスーツのタイプと、裏地の相性についても触れておきましょう。
普段使いのスーツの場合
日常的に仕事で着用するスーツの場合は、機能性も大切なので、すべりがよくて耐久性が高いポリエステルや、少し耐久性はポリエステルに劣るにせよ、すべりが良くて見栄えも良いキュプラなどがおすすめです。
ここ1番の勝負スーツの場合
プレゼンや大事な商談などの、ここ一番の時に着るスーツの場合は、見栄えを重視して質感があるレーヨンやシルクなどの光沢系素材がおすすめです。
あるいは、ポリエステル素材で、ビビッドカラーのカラフルなものや、ペイズリー柄などのプリントされたものでインパクトを与えるという選択肢もあります。
出張用のスーツの場合
出張時のスーツは、やはり耐久性を重視したい面と、出張先での商談で人と会うことなども考慮するとキュプラとポリエステルの混紡素材で、見た目も良く耐久性も持ち合わせた裏地などがオススメです。
おしゃれなクラシックスーツの場合
おしゃれを重視したクラシックスーツを仕立てる場合は、レーヨンで高級感を出すか、コットン100%や麻100%でヴィンテージ感を出すという選択肢が考えられます。
さいごに
今回は、普段はあまり意識することが少ない「裏地」について掘り下げてみました。裏地も素材によって機能性や特徴がさまざまなので、オーダーメイドにおいては「選ぶ楽しさ」があるパーツともいえるでしょう。
オーダーメイドで仕立てる際は、そのスーツをどういうシーンに、どういう目的で着用したいのかを伝えて、スタッフに相談しながら楽しく選んでいただきたいものです。
監修者
小林英毅(銀座英國屋 代表取締役社長)
1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。 オーダースーツ銀座英國屋の3代目社長。 青山学院大学ファッションビジネス戦略論・一橋大学MBA・明治大学MBA・ネクストプレナー大学にてゲスト講師。 銀座英國屋は、創業80年。東京銀座・オークラ東京・大坂梅田・大阪あべのハルカス・京都に店舗展開。
ビジネスウェアを選ぶ際の「どなたから、信頼を得たいか?」という視点を軸に、オーダースーツについて、お役に立つ情報をお届けいたします。
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