銀座英國屋の勝ち残るための秘策『事業規模拡大をあえて目指さない』

昨今、人口減少問題やテレワークの浸透、脱スーツ化という時代や環境の変化から、「スーツ業界の将来は暗いのでは?」と考える方もいらっしゃるかと思います。

特に、バブル崩壊から約25年間でスーツ着用が70%減少、また、2020年に始まった新型コロナの感染症蔓延によりテレワークが浸透し、さらに30%減少したと言われています。

そのような中、フルオーダースーツ専門企業として80年以上の歴史を誇るオーダースーツ銀座英國屋(東京銀座・大阪梅田など)は、実は、ある「秘策」を実践し、むしろ高収益体質になり、第三者評価機関(帝国データバンク社)から「上位7%以内の優良企業」と評価されている状況です。

その秘策が「(規模の拡大ではなく、)売上を維持しつつ、店舗を統合しながら、利益を増やす」。

実は、この方針は、単に会社が生き残る、というだけではなく「働く社員全員が、無理なく豊かに過ごしていけるようにしたい」という社員の幸せを願った末の方針です。

今回は、この「売上を維持しつつ、店舗を統合しながら、利益を増やす」という銀座英國屋の方針について、ご紹介いたします。

拡大を目指さない直接的理由

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事業規模の拡大を目指さない直接的な理由は、「建物や敷地面積の制約上、縫製職人を増員ができない」ということがあります。

銀座英國屋は、長年ご愛顧いただいているお客さまが大変多く、売上もおかげさまで好調で、工房はフル稼働でスーツを縫製しています。そして、手作業で縫製しているため、縫製着数をいま以上に増やすためには縫製職人の増員が必要となります。増員するとなると、自社工房の建物や敷地には制限もあり、広い場所への移転が必要となります。しかし同時に次のようなリスクが発生します。

・自社工房の近隣には移転可能な場所がなく、遠方への移転が必要となる。このことは今まで会社を支えていただいてきた職人にとって、通勤が遠くなることに直結し、強いては退職せざるを得ない可能性が高まる。

・工房の移転コストが膨大となる。

これらのリスクは、銀座英國屋としては取るべきではないと考えています。

そして、オーダースーツ銀座英國屋は、規模や売上が拡大したとしても、「人」がとても必要なビジネスモデルであり、また利益が増えにくいビジネスモデルでもあります。むしろ、必要のなかった販促コスト・管理コストが増えることになり、結果的に、規模拡大・売上拡大したとしても、社員の給与水準も同じようには上がりません。

これらのことから、今以上の規模拡大・売上拡大は社員の幸福に繋がらないのではないか?と考え、今後は「売上を維持しつつ、店舗を統合しながら、利益を増やす」という方針に方向転換しました。

売上を維持しつつ、店舗を統合できたならば、利益も大きく伸びる

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これは多くの人が理解しやすいロジックだと思います。

もともと、オーダースーツ銀座英國屋では、新規出店をする際には、ブランド上、「良い立地に」「良い内装」の店舗を構えざるを得ないため、家賃が高額となり負担が大きくなる傾向にありました。例えば、旧銀座本店は、年間家賃が1.5億円を超えていました。銀座英國屋グループ総社員数で割ると、一人当たり約100万円の計算となります。

もし、売上を維持しつつ、店舗を統合していけるならば、高額な家賃分を含む店舗の維持コストの分だけ利益に転換することができるのです。

コロナ禍でも利益1.5倍の増大を実現

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実際に、2019年度から2023年度までで、銀座英國屋は11あった店舗を6店舗まで減らしていますが、売上はむしろ103%と伸張、店舗の維持コストが減った分、利益も1500%(1.5倍)と激増させることができています。その増益分を働く社員へ還元できるようになり、同業種・同規模企業と比較して社員の平均年収を130.1%まで上げることができました。

売上増の背景は、WEB集客の強化

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この売上が伸びた背景は、WEBによる集客を強化したことです。

もともと銀座英國屋には、「買うつもりではないとお店に入りにくい」というお客様の心理的なハードルがありました。さらに、コロナ感染拡大の時には、より心理的なハードルが上がり、お客様が減少しました。そこで、購入を前提とせずにご来店いただけるサービスとして「無料オーダー体験」を導入し、「買うかどうかは、後で決められる」という状況にしました。

また、ギフト商品のオンラインショップを開設するなど、WEB集客を全体的に調整し直し、コロナ感染拡大前と比較し、新規売上は140.0%に伸びています。

利益増大で働く社員も幸せに

利益の増大が実現できている中で、社員の年収アップだけではなく、ワークライフバランスの整う環境も整備することができるようになりました。

例えば、店舗統合による1店舗あたりの人数が増えたことで、1人1人の休みが取りやすくなりました。

地域によっては、銀座英國屋では3人ほどの少人数店舗があったこともあり、体調不良者が出ても、他のメンバーの調整が難しいなど、自由に休みを取りづらいこともありました。しかし、今ではアパレル企業としては珍しく、1ヵ月に土日休みを2~3日取得することができています。(※シフトによる)

また銀座英國屋では、上司の役割を「部下の成長支援」と位置づけています。その成長支援の前提として部下に対する「理解」が重要となってきますが、その「理解」のためには、1対1ミーティングが効果的で、上司が常に部下に気遣う、というゆとりも必要です。店舗を統合したことにより、こうした上司の部下に対しての理解や支援も充実化させることができています。

まとめ

オーダースーツ銀座英國屋(東京銀座・大阪梅田など)は、経営方針とブランド力の強化が相互で有効にリンクをしており、筆者自身も「経営」を改めて考えさせられるきっかけを頂きました。小林社長は経営をしているだけでなく、大学での講師もつとめていらっしゃるため、普段の会話の中からも勉強になることがたくさんあります。

「私も社長と話してみたくなった!」という方はぜひ、銀座英國屋が定期開催している社長セミナーへ参加してみてください。

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監修者

山崎香織  採用コンサルタント「ヒトカラ」~中小企業採用支援事務所~ 代表
2006年より人材派遣事業、就職支援アウトソーシング事業、人材紹介事業でのコンサルタント経験を経て、現在は全国の中小企業に対し、新卒採用からキャリア採用、正社員からアルバイト採用まで、幅広く人材確保の支援を行っている。
幅広い採用手法の提案をし、コストを抑えた人材確保を実現。